経営再建中の半導体大手、ルネサスエレクトロニクスの再建で、トヨタ自動車など製造業大手と政府系ファンド「産業革新機構」による「官民ファンド」による支援構想が浮上している。
ルネサスの支援には米系ファンドが名乗りを上げているが、ルネサス製品ユーザーでもあるトヨタなどが技術流出などを懸念して動いているという。ただ、公的資金の投入まで受けた半導体大手「エルピーダメモリ」が2012年2月に経営破綻し、結局は米系傘下に入った生々しい実例があるだけに、「エルピーダの二の舞になりはしないか」との懸念が早くも出ている。
13年3月期は1500億円程度の最終赤字見込み
ルネサスが9月、国内の正社員を対象に実施した希望退職者募集には、当初の目標であった五千数百人を大きく上回る7511人が応募した。目標を超えたため、当初検討した、一方的に雇用契約を解消する「整理解雇」は回避したが、割増退職金の支払いなどにより2012年9月中間決算に約850億円の特別損失を計上。その他のリストラ費用も積み上がる結果、2013年3月期は1500億円程度の最終赤字となる見込みだ。
リストラ費用として、親会社3社と主力取引銀行4行は融資による計970億円の支援に応じた(NECは「ルネサスから製品の安定供給を受けるための『保証金』の提供=事実上の融資)。ただ、あくまで返済義務がある。当座の資金繰りは何とかなったとしても、財務体質は弱体化する。俄かに債務超過に陥るようなことはないが、資本増強が必要だと市場などから指摘されている。それでも、親会社3社はルネサスからの出資要請を断った。
自動車向け「マイコン」の世界シェア3割でトップ
そんな中で現れたのが米投資ファンドのコールバーグ・クラビス・ロバーツ(KKR)だ。ルネサスに第三者割当増資を引き受ける形で1000億円程度を出資し、議決権の過半を握ることを8月末に提案した。親会社3社が出資を否定する以上、ルネサスの経営を安定させるため主力取引行もいったんは容認する構えだった。
トヨタや革新機構は、そこへ割って入った形で手を挙げたのだ。
ルネサスは経営が悪化しているが、自動車や家電製品を制御する「マイコン」と呼ばれる主力の半導体は世界シェア3割でトップ。自動車向けに限れば4割で、特に日本の自動車メーカーには欠かせない「日本車の技術的な強みの源泉」。トヨタなどには、2011年の東日本大震災で、ルネサスのマイコン工場が操業不能になったことによるサプライチェーン(部品供給網)の寸断で減産を強いられた苦い記憶がある。KKRが経営の主導権を握り、企業価値を高めてルネサスを外資に売却するようなことになれば、自動車の生産に影響しかねないと心配しているわけだ。
官民ファンドの経営介入はかえって再建の妨げ?
ただ、ルネサスが「マイコン」で競争力を持ちながら、十分に利益を得られていないのは、自動車メーカーなどのユーザーの要望にきめ細やかに応じて製品を作り込んでいるため、余計なコストがかかっている面もある。ルネサスの再建にはこうした儲からない体質を変える一方、海外との取引を拡大していく必要があると見られており、官民ファンドの経営介入はかえって再建の妨げになりかねない。ただ、KKRは出資の条件に親会社などの追加融資やルネサス経営陣の総退陣などを求めている模様で、こうした点がルネサス側に二の足を踏ませている面もあり、「支援争い」の行方が注目されている。