自民党の安倍晋三新総裁が、総裁選投票日当日に食べたという「3500円のカツカレー」をめぐる話題が今も絶えない。テレビの情報番組に続いて、朝日新聞でも取り上げられた。
記事では、安倍新総裁が食べたカレーを「高級カレー」と評している。だがその朝日新聞社の中には、この値段を上回るカレーを出すレストランが営業中で、「高級カレー騒動」は終わりそうにない。
谷崎潤一郎の「細雪」に登場するレストラン
「カツカレーがにわかに脚光を浴びている」と伝えたのは、朝日新聞2012年9月29日朝刊の記事だ。安倍新総裁が、9月26日の自民総裁選での決起集会で「数千円はするというカツカレーを食べたことが報じられた」と言及。記者がその中身を確かめようと、総裁選が行われたホテルで料金を調べた。実際は「特注カレー」だったため正確な金額は分からなかったが、ホテル内にあるコーヒーショップに3200円や2900円のカツカレーがある点に触れている。
「高額なカレー」を食べた安倍新総裁を批判するような内容ではない。だが記事中には「安倍さんのは高級メニュー」「話題の高級カレー」といった記述は登場する。これに対してインターネット上では、当の朝日新聞が入居する建物の中に、3500円どころか6000円を超えるカレーを出す店があるではないか、との指摘が書き込まれたのだ。
これは「アラスカ」というフランス料理のレストラン。1928年に大阪で開店し、今年で創業84年を数える老舗だ。公式ウェブサイトによると、長い歴史のなかで同店の常連になった著名人は少なくない。阪急電鉄の創業者である小林一三をはじめ、歌舞伎役者の6代目尾上菊五郎、慶應義塾大学塾長を務めた経済学者、小泉信三と各界にファンが多かったようだ。
作家の谷崎潤一郎の小説「細雪」の中には、「ちゃうど時分時なので、アラスカへ誘ふ気なのだと察した貞之助…」と、店名が登場するくだりがある。
アラスカの大阪本店は現在、朝日新聞大阪本社のビルに入居している。サイトにあるランチメニューを見ると、ビーフカツカレーが選べるコースは6300円だ。オードブルやサラダ、アイスクリーム、コーヒーがつくが、昼食としてはかなり高額に思える。カツの入らない「カレーライスコース」でも3150円となっている。
「カツなしカレー」でも議員食堂の倍額
東京・中央区の朝日新聞東京本社にも、アラスカは入っている。ここではランチメニューでカツカレーやカツカレーセットが見当たらず、単品のビーフカレーが2100円、チキンカレーが1890円だ。前出の朝日新聞9月29日の記事では、衆議院の議員食堂のメニューを撮影した写真が掲載されていたが、カツカレーが945円となっていた。「カツなしカレー」でも、朝日のレストランは倍額以上という計算になる。
さらに、毎日新聞社のある「パレスサイドビル」でも営業していた。ここもカツカレーは販売しておらず、「アラスカ特製カレー&ライス」が単品2310円、「極上、黒毛和牛のスペシャルカレー&ライス」になると5040円だ。
メニューにあるというだけで、朝日や毎日の社員が連日「高級カレー」を食べているわけではないだろう。だが「3500円カレー」を取り上げたテレビ番組やスポーツ紙では、コメンテーターや街頭インタビューに答えた人による「高すぎるのでは」との疑問の声を紹介していた。安倍新総裁の「庶民感覚」について首をかしげていたメディアがあったためか、ネット上では「安倍さんがここでカレー食ったら朝日新聞はなんと報道するのだろうか」などと皮肉る書き込みが並んだ。
カレーのチェーン店では通常、カツカレーは1000円以下で食べられる。国内外に1300店舗以上が展開している「CoCo壱番屋」には、780円の「ビーフカツカレー」や880円の「手仕込とんかつカレー」などがメニューに見られる。運営会社の壱番屋に取材すると、安倍新総裁の「3500円カレー報道」の後、「ネット上ではツイッターでカツカレーが話題になったようですが、売れ行きが爆発的に伸びたということはありませんでした」と話した。これに対して、「ゴーゴーカレー」を運営するゴーゴーシステムに聞くと、「(総裁選翌日の)9月27日は、全国的にカツカレーがよく売れました」と明かす。ゴーゴーカレーのウェブサイト上で「人気ナンバーワン」となっている「ロースカツカレー」は、ご飯の量が「普通」だと750円、「特盛り」のサイズでも950円だった。