ギリシャでは2009年以降、金融危機の影響で失業率が高騰し、就業者の間でも賃金カットが広まった。家計への締め付けが強まっているさなか、今度は政府が欧州連合(EU)や国際通貨基金(IMF)、欧州中央銀行(ECB)による緊縮財政案を飲んだため、市民はさらなる重い負担が求められる。
今は国中が節約モードに入り、余分な出費を抑えようとレジャーを控えているという。この影響で、特に外食産業が苦境に陥っているようだ。
食べ物を家から持参し、店での購入を避ける
アテネに住む知人に連れられて、エーゲ海を臨むフリスボス・マリーナを訪れた。市中心部から車で30分ほどの場所にある、ビーチ沿いのモダンなショッピング街で、レストランやカフェ、ファッションの店などが立ち並ぶ。平日夜にもかかわらず、若者を中心に大勢の人でにぎわっていた。
歩きながら、知人がこんな言葉を投げかけてきた。
「店にあまり人が入っていないでしょう」
確かに、日本でもよく見かける人気アイスクリーム店の中には、客の姿がない。対照的に、遊歩道を挟んで海側には大勢の人が腰かけて、飲食を楽しんでいる。潮風が気持ちいいというだけではなさそうだ。知人によると、ここでは店内で食べるよりも持ち帰りの方が安いのだという。自宅から食べ物を持参して、店で買うのを避けている人もいるようだ。
帰り道にもう一度ショッピング街を観察してみると、空き店舗となっているスペースがたびたび目についた。これだけ人が集まる場所なのに、集客できずに撤退しているとみられる。買い控えの影響だろうか。
その後、知人の家族と一緒にレストランに入った。知人の家の近所にある「行きつけ」で、ギリシャ料理以外にもレバノンやキプロス料理と、あまりなじみのないメニューが並ぶが味は抜群だ。食事が一段落したとき、ギリシャ人男性の店長がテーブルに来た。人懐こい笑顔で、握手を交わしながら「開業して21年目です」と教えてくれた。だが最近の状況を尋ねると一転、「過去3年で、ビジネスは急速に悪化した」と厳しい表情に変わり、こう言葉を継いだ。
「とにかくお客さんが来ない。外食でも安い店やコーヒーショップを選ぶようで、こちらの売り上げはサッパリです」
近年はギリシャ料理のファストフード店が続々と登場し、不景気も重なって人気を高めている。相対的に価格の高いレストランは敬遠され、営業面で苦戦を強いられているのだ。
「生活費を差し引いたら、とても預金なんてできない」
長年順調だったレストラン業。かつては従業員を雇って6人態勢で営業していたが、今は店長とその妻の2人で店を切り盛りしなければならない。
伸び悩む売り上げをカバーするために経費削減に取り組むが、「料理の質は絶対に落とさない」とのこだわりから、以前と同じ良質の食材を使うと話す。だがここでも店長を苦しめるものがある。付加価値税(VAT)だ。これは日本の消費税にあたるもので、金融不安のなか2010年には23%にまで上昇した。食材を調達すれば高額の税金を支払わねばならない。しかし価格は、少しでも集客率を高めるために以前より下げざるを得なかった。今後、現政権が約束した緊縮財政が実行段階に入っていけば、消費者はますます財布のヒモを固くして、レストラン事業はさらに苦境に陥るかもしれない。
「収入は減ったのに、金銭面の負担が増える一方です。いったいどうすれば営業を続けていけるのでしょうか」
店長は悲鳴にも似た調子で、苦しい胸の内を明かした。
一般の家庭でも、収入が細る半面、毎年のように重くなる負担と同じ苦しみを味わっている。アテネ在住のあるギリシャ人夫婦に聞くと、夫は「先が見えない不安、怒り、さまざまな感情がわき出てきます」と吐露する。妻も「(2012年6月の)再選挙後、事態は悪くなっていると思う」と、苛立ちを隠せない様子だった。
別のギリシャ人女性は、こんな風に嘆いてみせた。
「せっかく仕事でお給料をもらっても、税金でゴッソリもっていかれちゃう。日々の生活費を差し引いたら、とても預金なんてできないわ」