中国全土に広がった反日デモがピークに達した2012年9月18日、北京の米国大使館前で、大使の公用車が襲われる事件が起きた。
ほかにも、日本以外の国の公館や企業をデモ隊が襲撃するケースが伝えられている。デモは鎮静化に向かっているようだが、反日とは関係ない排外的な動きが続けば中国の国際的な信用が低下する可能性もある。
日本と同盟関係の米国にも怒りが向かった?
北京の米国大使館は、日本大使館から500メートルしか離れていない場所にある。米国のゲーリー・ロック大使を乗せた車が大使館前でデモ隊に襲われたのは、満州事変の発端となった柳条湖事件が起きた9月18日で、反日の嵐が最も強く吹き荒れた日だ。
中国の著名な芸術家で人権活動家の艾未未氏は、自身の「グーグルプラス」のページに公用車襲撃の模様を映したとされる動画を公開した。撮影者は不明だが、建物の上の階から米大使館の門に向けて撮っている。この映像は米ニューヨークタイムズ紙電子版をはじめ、複数の米メディアが掲載した。
中国の国旗を掲げた20人ほどの集団が、シュプレヒコールを上げながら大使館に近づいてくる。門の前まで来ると、1台の黒塗りの車の進路を妨害しようと周りを取り囲み、警官隊ともみ合いになった。数人がフロントガラスに向かって何かを投げつけているのが見える。映像でははっきり確認できないが、車の前方に取り付けられている星条旗を奪おうとする者もいたようだ。さらに多くの警備員が動員され、車から一団を遠ざけて通り道を確保、車が離れていき騒ぎは収まった。わずか2分程度の出来事だった。
ロック大使にけがはなかったが、車の一部が壊れたという。翌19日、米国務省のヌーランド報道官は会見で、「中国当局が遺憾の意を表した」と述べ、責任を認めたことを明かした。反日デモの参加者がなぜ米大使館に押し寄せ、大使の車を襲ったかは不明だが、AP通信などは「日本と同盟関係にある米国にも、中国人の怒りの矛先が向かったのではないか」と報じている。
艾氏のグーグルプラスには、中国語で多くのコメントが寄せられた。今回の行動には賛同できないとする趣旨の書き込みが多く、「なんで反米なんだ」「本当にわけがわからない」「米国製品のボイコットでもするのか」と、少々あきれた様子の意見が並んでいた。中国国内からの投稿か、国外からかは分からない。
丹羽大使の公用車襲撃でも「遺憾の意」
日本以外の国が、なぜかデモ隊のターゲットにされた事例はほかにもある。9月16日には広東省広州で、イタリア領事館の車両をデモ隊がひっくり返した。中国共産党機関紙「人民日報」電子版で9月17日、この件に関する中国外務省のコメントが紹介された。外務省の洪磊報道官が記者の質問に答える形式で、「法律に基づいて調査している」と回答する一方、中国が国際法に基づいて外交官の身の安全を守る措置をとっていると強調した
民間レベルでも、日本と関係のない「犠牲者」が出ているようだ。韓国・東亜日報(電子版)は9月17日、アルファベットで「サムスン」と書かれた建物が破壊されている様子や、ハングルの看板を掲げた店舗が群衆に取り囲まれている写真を掲載した。記事では、サムスンが日本企業だと誤解されて襲われた可能性を指摘している。
デモが長引いて諸外国への「誤爆」が続けば、中国国内の不安定さがクローズアップされ、国際的な信用を失いかねない。当局もこうした懸念を持ったのか、19日になると北京では市民に向けてデモ禁止を通達した。「今後はほかの方法で愛国を示してほしい」というのだ。日本大使館周辺は各国の大使館が集まるため、これ以上「粗相」を繰り返すわけにはいかないのだろう。
大使の公用車が襲われた事例は、日本でも記憶に新しい。8月27日、丹羽宇一郎大使の乗った車が北京市内で強制的に停車させられ、掲げてあった日の丸を奪われた。この時も中国外務省は遺憾の意を表している。最終的には当局が、車を襲撃したとされる男2人を5日間の行政勾留処分にした。
一方、今回の反日デモでは大使館のガラスが投石で割られたり、日本の民間企業が焼き討ちにあったりと多大な被害が出たが、中国政府は「責任は日本側にある」として今のところ謝罪していない。