フジの昼ドラで流れた「落とし穴死亡事故」 「1年前に起きた事故そのまま」と批判

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   現在放送中の昼のドラマで、あるシーンが物議をかもしている。海岸に掘られた落とし穴に花嫁が転落して亡くなるという設定が、1年前に本当に起きた事故とよく似ていたのだ。

   実際の事故では夫婦が死亡する悲劇につながった。インターネット上では「いくらなんでも不謹慎ではないか」と疑問視する声が上がっている。

結婚と誕生日のサプライズという設定

   東海テレビ制作のドラマ「赤い糸の女」は、2012年9月3日にフジテレビ系で放送を開始した。三倉茉奈さん演じる主人公とルームメートの女性2人との関係を基にした、愛憎渦巻く人間関係が描かれていく。昼ドラらしく強烈なセリフや、少々オーバーとも思える演技が登場人物の欲望や歪みを際立たせる。

   9月17日の回では、ルームメートのひとりが結婚するにあたって、主人公がもうひとりのルームメートと共にお祝いの「サプライズ」として「落とし穴を掘ろう」と思いつく。新婦の誕生日が近いと知ると「落とし穴に落とした後、クラッカーを鳴らして『ハッピーバースデー』を歌って、シャンパンで乾杯しましょう」と2人は笑いあう。

   新郎に計画を明かして、落とし穴づくりに取り掛かる。砂浜を掘る2人の女性、それを見た新郎は「穴、深くないか」と心配するが、そのまま発泡スチロールの板で穴を隠し、ブルーシートをかぶせた後に砂をかけて完成した。

   当日、何も知らない新婦はウエディングドレスに身を包み砂浜にやって来た。両手を広げて待っている新郎の元へ歩を進める。その時、足元が崩れて落とし穴に落下した。主人公らはクラッカーを鳴らしてはしゃぐ。ところが新婦は穴に横たわって「助けて、助けて」と叫び声をあげ、大量の砂が穴に流れ込んでみるみるうちに新婦の姿が見えなくなった。「こんなはずじゃなかった」とばかりに、大慌てで砂をかき分ける3人。番組はここで終わったが、翌18日の放送で新婦は死にいたることとなる。

   視聴者を驚かせるショッキングな展開だが、実はこれとそっくりな事故が起きていた。2011年8月、石川県かほく市の海岸で、結婚して間もない若夫婦が落とし穴に転落して死亡したのだ。妻が、誕生日を迎える夫を驚かせようと友人と一緒に深さ2.5メートルの穴を掘った。計画では夫だけが落ちるはずだったが、夜で暗かったためか夫婦とも転落、穴を隠していたシートにかけられていた大量の砂が2人を埋めてしまい、窒息死したという。

脚本では通常ディテールまで踏み込まない

   ドラマの脚本を書いたのは、中島丈博氏。NHKの大河ドラマのほか、昼ドラでも「真珠夫人」「牡丹と薔薇」とヒット作品を手がけてきた大御所だ。「赤い糸の女」もドロドロした強烈な人間模様が評判で、インターネット掲示板では「面白い」とファンがついているようだ。ただし「落とし穴」のシーンについては、実際に類似の事故があったことから「不謹慎」「絶対抗議くるだろ」と批判的な意見が出ていた。

   落とし穴の設定は、最初から想定されていたのだろうか。J-CASTニュースが上智大学文学部新聞学科の碓井広義教授(メディア論)に聞くと、「シナリオになければ(落とし穴のシーンは)入らなかったでしょう」と話す。だが脚本段階では通常、「砂浜で穴掘って仕掛ける」程度の大まかな描き方で、ディテールまでは踏み込まないようだ。

   それでも、仮にシナリオ上「1年前の実際の事故」がにおわされていたとしたら、制作側がチェック機能を働かせるべきだと碓井教授。「番組制作の全責任を負うプロデューサーが脚本を読んだ段階で『問題あり』と感じたら、脚本家に『別の表現方法はないか』と相談する必要があると思います」。

   落とし穴の細かな設定は制作サイドが考えた可能性もある。だが撮影の現場にプロデューサーが立ち会っていたなら、事故をほうふつとさせるような場面にならないように変更することも可能だったはず、と碓井教授。

   1年前の死亡事故を制作側が「取り入れた」かどうかは分からない。表現を規制しすぎては、人が死ぬ場面が登場するようなドラマの制作は難しくなる。それを踏まえたうえで碓井教授は、今回の一件について「視聴者に『1年前の事故そのままじゃないか』と想像させるようでは、フィクションにもかかわらず実際の出来事をまねたとみられても仕方がない。その点で表現力不足」と指摘する。

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