中国漁船が大挙して尖閣諸島(沖縄県石垣市)付近に押し寄せる可能性が強まっている。中国政府が2012年9月16日にも東シナ海での出漁を解禁し、それを機に漁船が尖閣付近の領海内に侵入する、というシナリオだ。
ここ数年、中国による尖閣諸島海域での漁業活動は日本側の監視もあって、操業が限定的だった。中国漁民らは漁業権保護を強く訴えており、「実力行使」に出る可能性が強まっている。
東シナ海の休漁、9月16日正午に終了
中国漁船による尖閣諸島海域を含めた東シナ海の休漁期間は、9月16日正午(日本時間午後1時)に終了した。福建省や浙江省などの沿海地域から尖閣諸島海域へ出航する漁船の数は毎年1000隻余りとされるが、ここ数年は日中の領土問題から、操業が大幅に減少していた。
中国の環球時報(2012年9月13日付)によると、中国農業部漁業局は公式サイトで、東シナ海の出漁解禁に伴い、「中国沿海の漁業権を守り、法に基づく執行をするため、各地区の漁業監視船の出航準備は万全である」ことを表明。中国農業部は東シナ海漁政局と福建省や浙江省などの漁業主管部門に対して、「中国漁船の安全を保障するとともに、東シナ海の漁業資源を合理的に利用するよう求めた」と、報じた。
こうしたことから、多くの中国漁船が尖閣諸島付近の領海に押し寄せ、侵入する恐れが出てきた。いわば「実力行使」で、実態として東シナ海での漁業を確立し、さらにこれを権利として認めさせ、さらには尖閣諸島を実効支配しようとする可能性がある。
中国のこうした「実力行使」による領土を実効支配しようとするやり方は、南シナ海の南沙諸島や西沙諸島の領有権をめぐる東南アジア諸国との対立でもみられる。
最近では、12年4月に中国とフィリピンが領有権を争う南沙諸島で、中国漁船の取締りのためにフィリピン海軍が艦船を派遣したことに対し、中国が複数の漁業監視船などを派遣してフィリピン海軍艦艇や沿岸警備艇などと長期にわたってにらみ合いを続けた。
フィリピン外相が中国側に対し、「フィリピンの排他的経済水域(EEZ)内で、緊張を高めるような行動を控えるよう」申し入れたのに対して、中国は6月に中国国務院が南沙・西沙・中沙諸島をあわせて「三沙市」として新たに行政組織を海南省の管轄下に置くことを発表。西沙諸島で最大の「永興島」に市政府を設立して南シナ海一帯の実効支配に乗り出している。
中国漁船「ただの漁船と思わないほうがいい」
南シナ海の海域には、石油や天然ガスなどの海底資源の存在が有望視されるほか、豊富な漁業資源に恵まれていて、現在、南沙諸島は中国や台湾、ベトナム、フィリピン、マレーシア、ブルネイが、西沙諸島は中国、台湾、ベトナムがそれぞれ領有権を主張している。 たとえば、南沙諸島をめぐっては1988年に中国とベトナムの海軍が武力衝突し、勝利をおさめた中国が一部を支配することになった。以降、大きな武力衝突は起きていないものの、中国が構造物を設置するなどの動きをみせたり軍事演習を行ったりすることで、そのたびに摩擦が表面化している。
中国漁船がベトナムなどに拿捕される事件も発生。中国は漁業管理や海洋監視などを理由に、海域における法執行活動の強化を図る動きをみせている。
「中国・電脳大国の嘘」(文藝春秋)などの著書がある、中国事情に詳しいノンフィクション作家の安田峰俊氏は「中国が漁船を使って海洋上の権益を拡大するやり方はいわば常套手段ですから、尖閣諸島にやってくる中国漁船もただの漁船と思わないほうがいいでしょう」と指摘する。
とはいえ、どんなに中国漁船が領海内に侵入してきても、民間の船舶である限り日本側は粛々と警告を発して追い出していくしかない。
安田氏は「一つ間違うと2010年9月に起きた(海上保安庁の巡視船と中国漁船の)衝突事件のようなことが繰り返されることになる」と、危惧している。