内閣府の食品安全委員会が2012年9月5日、牛海綿状脳症(BSE)をめぐり、現在20か月以下に制限している米国産牛肉の輸入を30か月以下に緩和する方針を示したことで、年明けにも安価な米国産牛肉の輸入が増える可能性が出てきた。
牛丼チェーン、スーパーマーケットなど流通業界は歓迎するが、消費者団体の安全性への懸念は根強い。
BSEの検査を緩和
食品安全委はBSEの病原体となるプリオンの牛への感染実験で、月齢30カ月まではプリオンが体内に蓄積する量は極めて少なく、検査対象を31カ月以上に引き上げても「人体への影響は無視できる」と評価した。国際的にもBSEの検査は緩和される方向にあり、今回の食品安全委の評価も国際的な科学的知見に基づいたものだ。
これに対して、消費者団体は「米国には牛の月齢を確認する仕組みがなく、飼料の規制も十分でない」「米国産牛は成長ホルモン剤を使用しているケースがあり、人体への影響が懸念される」などと指摘。輸入拡大に慎重な対応を求めている。
今回の食品安全委の方針を受け、厚生労働省が米国産牛肉の輸入を緩和した場合、国内では米国産牛肉の輸入が増える可能性が高い。
関係者によると、これまで日本の食肉業者らは「月齢20か月以下」の証明書を日本向けに発行してもらうため、米国側に割り増しの手数料を支払う必要があった。今後は他国と横並びの「30か月以下」となるため、手数料負担が少なくなり、米国産牛肉を輸入しやすくなるという。外食チェーンなどで安価な米国産牛肉の利用が増え、牛丼の値段が下がる可能性もある。
大手牛丼チェーンなどによると、月齢30か月の牛は、20か月以下に比べると肉に脂がのって食味がよくなるという。これまでは20か月以下といっても、実際には十数か月で出荷されるケースが多く、これが30か月に規制緩和されると、牛が成長した分、肉質も肉量も向上するという。米国からの輸入量が増えれば、豪州産などライバルとの価格競争が激化し、牛肉の値段がさらに下がる効果も期待できる。
消費者の反応が気になる
農水省によると、国内の牛肉の消費量は国内でBSEが発生する直前の2000年度は約110万トン(輸入73.8万トン、国産36.5万トン)だったが、2003年12月に米国でBSE感染牛が発見され、輸入禁止になると、2004年度の国内消費量は80万トンに低下。国産牛肉はその後も35万トン前後で推移したが、輸入牛肉は40万トン台に減少し、消費量は80万トン台にとどまっている。
2000年代初頭まで、米国産牛肉は豪州産と並び、輸入牛肉の半数近くを占めてきた。米国産牛肉の輸入が禁止となった後は、BSEが発生していない豪州産とニュージーランド産牛肉の輸入が急増した。
BSEが発生した輸出国のうち、日本は2005年12月、「月齢20か月以下」などを条件に米国とカナダから牛肉の輸入を再開。2006年度以降、米国産は徐々にシェアを回復したが、2010年度で豪州産35.2万トンに対して、米国産は9.9万トンにとどまっている。
流通業界も規制緩和をもろ手を挙げて歓迎しているわけではない。「気になるのは消費者はじめ、世論の反応」(関係者)という。今回の食品安全委の答申を受け、厚労省は消費者の意見を聞いたうえで最終判断することになる。食肉の安全をめぐる議論だけに、科学的知見の是非だけでなく、消費者の反応も気になるところだ。