尖閣諸島をめぐって日中関係がこじれるにつれ、中国在住の日本人に悪影響が出始めた。上海では日本人が暴行されたり、いやがらせを受けたりする事例がかなり報告された。
政府が尖閣国有化を表明してから、現地の反日傾向が顕著になっているようだ。週明けには、満州事変の発端となった柳条湖事件が起きた9月18日を控え、現地では緊張が高まっている。
宋文洲の友達がラーメンをかけられた
上海の日本総領事館は2012年9月13日、在留邦人から寄せられた現地での被害状況を公表した。歩道を歩いていた人が中国人に「ジャパニーズ」と言われて麺や炭酸飲料をかけられたり、足を数回けられたりしてけがを負ったという。ほかにも眼鏡を壊された人や、ペットボトルを投げつけられて「ばかやろう」と罵声を浴びせられた人もいる。少なくとも4人が負傷したようだ。
ツイッターでは、現地の治安についての生々しいツイートが見られる。経営コンサルタントの宋文洲さんは、「私の日本人社員の友達がラーメンをかけられた。上海で」とツイート。また、中国在住の日本人は「近所でも日本人ってだけでいきなり殴られた人がいるし、うちの隣にある日本人街の出入りを禁止してる日本企業もあるそう」「うちのスタッフの旦那(アメリカ人)は昨夜乗ったタクシーで日本人の悪口を延々聞かされ、いつでも殺せると言われたそうな」などと報告している。
上海に長期滞在する日本人は5万6000人と、北京の1万人を大きく上回り中国国内トップ。領事館に聞くと「世界最大の日本人コミュニティーでもあります」と明かす。領事館では9月11日に続いて13日にも注意喚起を出し、人が大勢集まるスポットや深夜に外出する際は警戒を怠らず、デモが行われている場所に近寄らないよう呼び掛けた。一方で、領事館前では連日、中国人がプラカードを手に抗議集会を開いているが「規模は比較的小さい」とのことだ。
小学生1570人余りが通う上海日本人学校虹橋校に電話取材すると、生徒の登下校の際の安全には格別の注意を払っていると話す。同校では以前から、生徒がひとりだけで通学することはなく、生徒が住むマンションと学校を結ぶシャトルバスに乗ったり、保護者が送迎したりしている。それでも不測の事態に備えて、学校側から保護者に対して領事館からの注意事項を伝え、安全面への配慮を促していると説明した。8月20日に2学期が始まってから今までの間、学校側がいやがらせを受けたような事例はないという。
現在、上海に住む30代の男性はJ-CASTニュースの取材に、「国有化の発表で雰囲気が変わったように思います。友人の『微博』(ミニブログ)の転載に『釣魚島(尖閣諸島の中国名)は中国のもの』という画像がありましたし、ニュースの(反日)トーンもかなり強くなった感じがします」と話す。
少数の一般人が暴走して、街中で日本人に暴力をふるう
この男性は、最近でも中国人から個人的にいやがらせをされたり、悪口を言われたりしたことはないと言う。一方で自衛を徹底している。上海に住んで6年目で、中国語はもちろん現地の事情に明るいため、危険とみられる場所には一切近寄らず、日本人が多く集まる場所を避けて大通り沿いの店に入るよう心がけて「リスクヘッジ」しているそうだ。
尖閣をめぐっては2005年、2010年にも中国各地で反日デモが起きた。特に2005年4月16日に上海で起きたデモには約2万人が集まり、多くの日本料理店が襲撃、破壊されたうえ、日本人2人が負傷している。今回は過去と比較して状況に違いはあるだろうか。在上海の男性は2010年当時の様子を覚えており、この時の方が「デモはもっと人数が多かったように感じます」と振り返る。ただ、「問題が起きそうな場所はだいたい予想がつき、上海の友人が危険情報を教えてくれたので、日本人にとってはそれほど怖くありませんでした」。
今回の場合、組織的なデモは当時より少ないようだが、「少数の一般人が暴走して、街中で日本人に暴力をふるっている」と感じるという。いつ、どこで面倒が起きるか予測不可能なだけに、在留邦人にとっては精神的にも参るだろう。
日中双方で、尖閣問題の着地点は今のところ見いだせていない。加えて、満州事変の発端となった柳条湖事件が起きた9月18日が間近に迫っている。男性は、「週末から18日までは極力外に出ません。ただ、それ以降も状況が変わらないと難しいことになるかもしれません」と困った様子だった。