冬の高級食材のカニがますます高嶺の花になりそうだ。日露両国政府がオホーツク海のロシア側海域でのカニの密漁防止に向けた初の2国間協定を結び、日本が輸入するロシア産のタラバガニ、ズワイガニの総量が大幅に減少する見通しになったためだ。
資源保護のためとはいえ、ただでさえ高価なカニは、さらに庶民の食卓から遠くなりそうだ。
資源減少が深刻
2012年9月8日、ロシア極東ウラジオストクでのアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議の際、野田佳彦首相とロシアのプーチン大統領の首脳会談で協定に合意した。背景にあるのは、ロシアの違法操業によるカニの乱獲だ。
水産庁によると、ロシア政府はカムチャツカ半島から北方4島周辺を含む極東海域で、年間上限約4万6000トン(2012年)の漁獲枠を決め、漁業権を持つ正規船だけに漁を認めている。しかし、外国船などを偽装した違法操業が後を絶たず、カニの資源減少が深刻な状況という。
水産庁の公式統計では、2011年にロシアから日本に輸入されたタラバガニ、ズワイガニなどの総量は3万2731トンだが、どこまでが「正規品」なのかは判別できない。日本の稚内や根室などの漁港には、「ロシア政府が決めている漁獲量の2~3倍のカニがロシアから入ってくる」という説もある。
税関で厳重にチェック
2国間協定は、ロシア政府がカニを輸出する際、漁獲海域や量をチェックした証明書を発行し、日本政府はその証明書を税関で確認したうえで輸入を認めるとの内容。来年の発効後は、証明書がないカニの日本国内への輸入は認められないことになる。両国政府は資源枯渇が指摘されるマグロの事例を参考に、証明書の偽造防止策の検討も進めている。
ロシア産のカニは国内に出回るカニの総量の6割前後を占めている。協定によって「国内に出回るカニの量は減り、価格に影響が出る可能性は否定できないだろう」というのが水産庁の見解だ。
貴重な水産資源のためとはいえ、日本の消費者にとっては、とりあえずはあまり喜べない協定になるが、外務省幹部は「7月末の日露外相会談は、安全保障や経済分野の協力を深めていくことで一致した。経済分野などで協力関係を深めていくことで、対立の続く領土交渉を進める環境を整えていくということだ」と、大局的な視点を強調する。これで日露関係全体が前進するなら、カニの少々の値上がりにも国民の理解は得られるだろう。