中国の次期指導者とみられている習近平氏の動静が聞こえてこない。公式発表が控えられているうえ、外国の要人との面会までキャンセルしている。
インターネット上では習氏に関する話題が遮断され、テレビの関連ニュース映像も突然ストップした。健康不安説がくすぶるなか、当局が対応に神経をとがらせているようだ。
クリントン米国務長官との会談を「ドタキャン」
習氏の動静は2012年9月1日以降、10日間以上伝えられていなかった。中国外務省の記者会見で、外国メディアが「習氏は生きているのか」と問うと、報道官が「もっと真剣な質問をしてほしい」と不快感をあらわにしたという。
10月の開催が予想されている共産党大会で指導部が交代し、習氏が最高指導者に就くとの見方が有力ななか、直前になって本人が姿を消したことに「権力闘争か」「健康状態が悪化したのでは」とさまざまな憶測が流れている。
9月5日、ヒラリー・クリントン米国務長官やシンガポールのリー・シェンロン首相らと、さらに10日にはデンマークのトーニングシュミット首相との会談がセットされていたが、いずれも直前になってキャンセルした。複数のメディアは「体調不良説」を報じ、水泳中に背中をけがしたという話もある。
英デイリー・テレグラフ紙(電子版)は、さらに深刻な病状ではないかとする。9月12日付の記事で、在北京の政治評論家のコメントとして「習氏は心臓発作だった」と報じたのだ。さらに香港のサウスチャイナ・モーニングポスト紙の元編集者は、習氏が脳卒中を患ったため公の場に姿を現せないと説明したという。真偽のほどは定かでないが、事実とすればかなりショッキングな話だ。
ほかにもある。米ニューヨークタイムズ電子版では、「あるメディアの情報」として習氏が交通事故に遭ったとの話を紹介。さらに9月13日、香港の人権団体が「習氏は肝臓に小さな腫瘍が見つかり、既に手術を受けた」との情報が報じられた。
動静の報道は国内では規制されているようだ。
9月12日には、中国で放送されているNHK国際放送のニュース番組で、習氏の動静に関する内容の場面で突然画面が真っ暗になり、視聴できなくなった。ミニブログ「微博」では、習氏の名前での検索が不可能になったり、習氏の動向を話題にしようとした投稿がすぐに削除されたりしたとの報告もあった。
「国慶節」前までに姿を現すかに注目
9月13日になると、中国側の状況はやや変化した。中国国営メディアが習氏の動向について触れ、6日に亡くなった共産党の老幹部に対して「いろいろな形で哀悼の意を示した」と報じたのだ。元朝日新聞編集委員で同志社大学教授の加藤千洋氏はJ-CASTニュースの取材に、この種の動静の伝え方は「常とう手段」と説明する。
加藤氏はこの「追悼」のニュースについて、習氏が胡錦濤国家主席に次ぐ序列第2位で報じられた点に触れ、習氏が生存していると同時に失脚していないことを示すものだと指摘した。
一方で中国指導者の健康状態は極秘情報であり、これまでも外部には一切公表されなかった。加藤氏によると、1997年に死去したトウ小平(トウは登におおざと)氏が重篤な状態に陥った際も、中国外務省は「われわれの元には変わった情報は届いていない」と言い続けたという。2011年には江沢民氏の死亡説が流れたが、この時も何も発表はなかった。次期指導者と見られる習氏の体調について一切公式コメントが出ないのも、これまで同様の措置と考えられよう。
とは言え党大会が間近に迫っているとみられる時期に、次のリーダーと目される人物が海外要人との会談を突如キャンセルし、姿を現さない事実はやはり何らかの事態が起きているとみられる。では、いつまでに本人が登場すれば「不安なし」と言い切れるだろうか。
加藤氏は時期的な「タイムリミット」として、9月末を挙げた。10月1日は中国の建国記念日にあたる「国慶節」で、この日の前には党の古参幹部を招いての宴会など、さまざまな祝賀行事が開かれる。「ここで習氏が参加していないとなると、問題でしょう」と加藤氏。お祝いの席に現れた様子が映像として流れてこなければ、事態が深刻化している可能性がありそうだ。