「リーダーであり続けるにはたえず次の事業を出し続けるほかない。苦しいことがあっても信じることを続けることだ。基礎化学は良くなることがなくても消えるわけではないのだから」
旭化成の藤原健嗣社長は2012年9月5日、東京都内で開いた記者懇談会で私にこう強調した。
旭化成はリーマンショック後利益の落ち込みを見せたが、アクリル繊維原料や合成ゴム原料の拡大、住宅の好調に加え、リチウムイオン電池セパレーターなどエレクトロニクスの復調で増収増益基調に復帰、米医療機器メーカーの買収など将来収益源の確保にも布石を打った。
藤原社長の入社当時売り上げの約70%を占めた繊維部門は現在では約7%。「多角化への飽くなき挑戦が今花開いている」という。
現在では電子コンパスや人工腎臓などが収益源
変革と成長への挑戦の足取りをわかりやすく示すのが主力工場の延岡工場(宮崎県延岡市)の変遷。事実上の創業者である野口遵がカザレー法によるアンモニア合成に成功し肥料生産を始めたのを機にレーヨン、ベンベルグ、火薬事業など事業を拡大したが、現在では電子コンパスや人工腎臓など新事業がレーヨンに代わる新しい収益源に育っている。「科学技術の力を借りて世界の人々の生活を豊かにするという野口遵の企業家精神こそ旭化成グループが継承する基本理念である」と山本一元相談役も強調している。