時間にもお金にも余裕がある65歳以上のシニア世代の消費が好調だ。欧米や新興国を含む海外経済の低迷で、震災復興と個人消費は、今や景気の頼みの綱だが、その中でもシニアが支える構図が定着しつつある。
国立社会保障・人口問題研究所の推計では、65歳以上の世代が総人口に占める割合は、2010年の23%が、2015年に27%、2040年には36%に上昇する見通しだ。
団塊世代はこれからが本番
個人消費全体に占めるこの世代のシェアは2002年の33.3%から増え続け、2011年には44.0%になった。国内総生産(GDP)約500兆円の6割の300兆円が個人消費で、消費実態調査などから推計される消費市場は300兆円程度とみられ、シルバー消費は現在でも約100兆円以上になる計算だ。
政府も、公式にシルバー消費に注目。7月末にまとめた「経済財政白書」でも詳細に分析。①34歳以下、②35~59歳、③60歳以上の各世帯の消費支出額(名目)を2006年以降2012年3月までの25四半期について、四半期ごとに前年比増減を集計したところ、①は増えたのが4回、②も8回にとどまる一方、③のシルバー世帯は19回に達した――と、シニア層の"太っ腹"ぶりを指摘している。
ただ、一口にシニア層といっても、細かく分析しないと実態を見誤る恐れがある。今も、消費が好調なのは主に65歳以上世帯で、60~64歳の支出は前年比マイナス基調が続いている。実際、団塊世代の退職が本格化した2007~2009年、退職金を当てにした「団塊特需」期待が叫ばれたが、実際には空振りに終わっている。
これについて、あるエコノミストは「60歳定年後も働き続ける人が大半で、2006年に65歳までの雇用を企業に促す法改正が行われたが、実際の雇用形態は常勤でも1年ごとの更新など不安定な人が多く、退職金をパーっと使おうというように消費マインドが盛り上がらなかった」と指摘する。
これは年金支給の繰り延べとも深く関係する。不安定雇用でも年金が出ていればそれなりの消費支出を期待できるが、公的年金の定額部分の支給開始年齢は徐々に引き上げられている。60歳を超えた世代でみると、1947、48年生まれが満額支給になるのは64歳、つまり今年から来年にかけてで1949~51年生まれは65歳になるので、さらに先になる。
このため、「消費が活発になるのは65歳から」(エコノミスト)という"法則"が働くというわけだ。そうなると、団塊世代が65歳を過ぎて本格的な老後に突入するこれからが、シニア消費の本番ということになる。
シニア消費のもう一つのポイントが資産だ。現在約1500兆円の個人金融資産のうち6割を60歳以上の世代が保有することが、シニア消費の根底を支えるからだ。
百貨店の高級品消費を支える
そこで、「資産効果」が議論になる。経済財政白書は、フロー(月々の収入)が現役より落ちるシニア層は、ストックである資産の動向に敏感だとして、リーマン・ショック(2008年秋)や東日本大震災後の消費手控えを例に、「高齢世帯の増加に伴って、消費マインドや資産価格の動向が、消費を通じて実体経済に影響が高まる」と、慎重に分析する。
ただ、こうした「定説」が当てはまらないような動きも見える。最近の百貨店の高額消費だ。美術品、宝飾品、貴金属の売り上げは、1年近く増勢基調を続けている。旅行も、JTBの海外旅行は4~6月に全体で前年比3割伸びた中で、65歳以上が5割増と、全体をけん引したという。
「震災後に手控えていた反動もある」(大手百貨店)と、楽観を戒める声はあるが、流通、サービス業界では、シルバー層の取り込みが今や最大の課題となっている。
例えばイオンが朝早く活動を始めるシニア層に合わせ午前7時開店に早めたところ、好評のため秋以降も継続。そごう柏店がシニア向け化粧品売り場を設ければ、レンタルビデオなどの「TSUTAYA」は50歳以上をターゲットに本やCD選びの相談に応じる「コンシェルジュ」を常駐させた「代官山蔦屋書店」(東京都渋谷区)をオープン。居酒屋チェーンのワタミが若者向けの「和民」と差別化した小規模店「炭旬(すみしゅん)」を展開するなど、知恵を絞る。
こうした小売業界の努力が、シニアの財布のひもをどこまで緩められるか。日本経済全体の行方にも、大きな影響を与えるだけに、目が離せない。