スマートフォン市場で米アップルに肉薄する韓国サムスン電子に、米国の人権団体が労働問題で「イエローカード」を突きつけた。中国にある同社の複数の工場で、不当な残業や賃金未払いなどが起きているとの報告書が公表されたのだ。
さらに別の工場では、法定年齢に達しない児童労働が行われていたとも訴える。事実であれば、グローバル企業としてイメージを大きく損ねるに違いない。
工員との契約書すらナシ、月186時間の残業
サムスンの中国工場での労働実態を告発したのは、米非営利団体「チャイナ・レーバー・ウォッチ」(CLW)だ。2012年9月4日付の報告書を読むと、CLWの調査員が現地工場に工員を装ってもぐりこみ、従業員から話を聞くなどして調べた内容が明かされている。
対象はサムスン直営の6工場と、サプライヤー(部品などの供給業者)の2工場。ほぼ全工場で、11~12時間立ったままの作業と肉体的に厳しい労働環境で、半年以上も月100時間を超える残業が続き、休日は1日だけだったところもある。繁忙期にはひと月の残業時間が186時間に達する工員もいた。ほとんどの工場で契約上の不備が見られ、契約書すら交わさない事例まであったという。長時間労働にもかかわらず、残業代を一部支払わない工場も見つかった。
未成年の採用では、少なくとも3工場が特段の配慮や保護制度を設けずに一般の工員と同じ作業にあたらせ、その中のひとつは年齢規定の違反が発覚するのを恐れて社員証を偽造して持たせていた。本人には不利な契約となるのを承知で人材ブローカーからあっせんを受けるケースも見られ、採用時に最大800元(約1万円)の「手数料」を払わせる規則まで発覚したそうだ。
サムスンが経営権を握る直営工場でもこういった劣悪な内容が確認されたが、サプライヤーの事情はさらに悪いとCLWは指摘する。ある工場では、作業の研修は行われず、給料が低く抑えられ、始業20分前集合で行われる朝礼は賃金に含まれない。身分が不安定で、勤務し続けても正社員になれるかは不明という。
この報告書に先立ちCLWは2012年8月7日、広東省恵州市にあるサムスンのサプライヤー、海格国利電子(HEG)で、不当な児童労働が行われていると批判した。CLWによるとHEGには2000人が勤務しているが、学校が夏休みや冬休みの時期になると学生作業員が増え、全体の8割を超えるという。CLWは2012年6~7月に工場に潜入し、16歳以下の工員を7人割り出したことから「児童労働が日常的に行われている」と断定した。
14歳少女を就労させたうえ理由もなく突然解雇
中国では、6歳から9年間が義務教育と定められている。ただ文部科学省の資料によると、入学年齢は7歳というケースも多い。CLWが話を聞いた中には14歳の少女がいたそうだが、これは明らかに義務教育終了前の就業だ。
少女は2012年2月6日に採用され、梱包作業に携わっていた。ある日、誤って階段から転落してけがをするが、工場側は彼女を病院に連れて行かず、それどころかけがを理由に仕事を休むのを許可しなかった。結局少女は6日間休んだが、その分は賃金から差し引かれたという。その後も、欠勤の際は賃金カットが続いた。最悪なのは、6月に突然理由もなく解雇され、住んでいた社員寮を追い出された例だ。本人は「近々(当局の)査察が入る予定で、もし不法な児童就労が明るみに出ると、工場は高額な罰金を課される。それを恐れて私をクビにしたのではないか」と涙ながらに告白したそうだ。
本人は偽造社員証を持たされていたため、14歳という年齢は本人の申告だ。しかし証言が事実なら、未熟な子どもに対してけがの治療の面倒すらまともにみず、いきなり解雇するやり口だけで企業としての倫理観を疑われる。
サムスン「児童労働は確認されなかった」
サムスンはCLWの指摘について9月3日、公式ブログで見解を発表した。サムスンがHEGの全従業員と面会して社員証や人事記録を確認し、学生工員とは面談も実施したという。その結果「(不当な)児童労働は確認されなかった」。16歳で学生の工員はインターンで、不法就労ではないと主張する一方、「不適切なマネジメントや潜在的に危険な作業、定められた時間を上回る残業事例が見つかった」ため、HEGに即座に改善するよう求めたという。ただ、9月4日に出されたCLWの第2弾報告書に関するサムスン側の反応は、まだ見られない。
このニュースは英フィナンシャル・タイムズや米ビジネスウィークをはじめ、欧米メディアが伝えている。サムスンにとってダーティーなイメージがつきまとうことになれば一大事だ。
中国での就労実態が非難されたのは、サムスンが初めてではない。米アップルが「アイフォーン(iPhone)」や「iPad」の生産を委託するフォックスコン社の広東省深センにある工場で2010年以降、工員の自殺が相次いだ。米CNNは2012年2月、フォックスコンの潜入取材を敢行。従業員から厳しい労働環境の実態を聞きだした。これに対してアップルは、世界中のサプライヤーに対して、従業員の労働条件に配慮するよう求めていると釈明したという。