「2012年の日中海戦」。こんな衝撃的なタイトルが米国の権威ある雑誌の電子版を飾った。尖閣諸島の領有権をめぐって対立が続く日中両国が「もしも尖閣沖で戦火を交えることになったら」という、仮想の筋書きだ。
軍備増強に力を入れる「軍事大国」中国と、平和憲法の下であくまで「専守防衛」に徹する自衛隊を組織する日本。両者を比較した米誌は、意外とも思える結論を導き出した。
旧ソ連軍のように中国軍は欠点を隠そうとする
国際情勢を扱う米「フォーリン・ポリシー」(FP)誌電子版に2012年8月20日付で掲載された日中の海上戦力にまつわる論文は、米・海軍大学校のジェームズ・ホルムズ准教授が執筆した。
日中による直接対決は「まずあり得ないシナリオ」と前置きするホルムズ准教授。中国が外交的に日本を孤立させるか、日本が「愚かにも」自ら孤立の道を選ぶかといった極端なケースにでもならなければ条件はそろわないし、万一衝突が起きたら米国が介入してくると見るからだ。だがここでは、そのような前提条件を「棚上げ」して、日中の戦力を純粋に分析している。
まずは規模の比較。艦船は日本の海上自衛隊が48隻なのに対して中国人民解放軍は73隻、潜水艦は海自16隻、中国軍63隻と中国側に軍配が上がる。だがホルムズ准教授は「数(の比較)だけでは誤解を招く」として理由を3点挙げた。
1点目は、装備が充実していても実戦で軍が期待通りの力を発揮できるとは限らないとして、日中を米ソになぞらえて説明する。ソ連軍は強大な戦力と言われていたが、実際は船舶のずさんな操縦、古びた船体とハード、ソフト両面で質の衰えは隠せなかった。
ソ連や中国のような「閉鎖社会」では欠点を隠そうとするが、日米は「開放社会」で、自軍の失敗について徹底的に話し合う習慣が身についており、隊員の能力の高さなど質的に優れた海自が中国軍の量的優位をしのぐとする。
2点目は、戦時における兵の応用力といった人的要因だ。船舶の操縦術や砲術、味方の部隊から離れた際に発揮されるあまたの能力といった点から評価してみると、海自はアジアの海域で単独、合同で継続的に訓練しているが、中国軍はこのような経験が少ないため、日本側が優れていると指摘している。
そして3点目に、地理的な要因を挙げる。尖閣沖で艦船同士が直接砲火を交えるとは考えにくいため、戦闘機の配備やミサイルの発射台をつくるための陸上設備の充実が欠かせない。日本の場合、黄海から東シナ海に多くの島々を有し、いずれも中国本土の海岸線から800キロ以上離れていない。これらが基地として機能すると考えられるわけだ。さらに日本側は「対中戦」のためだけに戦力を集中できるが、南シナ海でも領土紛争を抱える中国は戦力を分散させておかねばならず、この点も不安材料になるとしている。