赤ん坊がいるから帰れない 家は壊れたまま放置【福島・いわき発】

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   およそ3年ぶりに現れた残留コハクチョウの「左助」が、早くも姿を消した。左助は前からそうだった。姿を消しては突然現れ、現れたと思ったらまたすぐ消える。10年近く、羽をケガして飛べない左助を夏井川でウオッチングしてきた。で、その結果として、左助は気まぐれでわがまま、孤独を好む――と、私には映る。


   早朝の散歩と平の街への行き帰り、堤防から夏井川を眺める目的が一つ増えた。「左助」が生きているとわかったから。が、実際にはアオサギ(=写真)がフワリと飛んだり、着水したりするだけ。「左助」が夏井川河口のヨシ原にまぎれこんだら、ウオッチングするのは難しい。


   きのう(8月13日)の夕方、新盆(カミサンのいとこ)の家へ行って線香をあげた。海風の届く家で、建った当時は、まわりは農地だった。松林もあった。


   遺影の飾られた盆棚を前に、故人の思い出話になった。ヒグラシが遠くの森で鳴いていた。と、庭からツクツクボウシの鳴き声が聞こえた。「ツクツクボウシですね」というと、奥さんも耳を澄ませる。今年初めて聞くのだろう。


   家の周りの環境や、耳に飛び込んできたセミの声から、奥さんの実家の男性も加わって生きものの話になった。


   キジがよく目撃されるという。そこは民家が散在しているから当然、禁猟区だろう。奥さんの実家は丘を一つ越えたところにあって、そこでもキジの数が増えている。たぶん、阿武隈の山里でイノシシが増えているのと同じ理由だ。猟をしても、放射性物質のせいで食べられない。だから、猟をしない。キジやイノシシはおかげで安心して子育てができる。


   人間は、逆だ。屋根瓦が壊れたままになっている家がある。なぜ放置しているのだろう。今も遠くに避難したままなのだという。「赤ん坊がいるから。20年後、30年後のことを考えると心配なんだろうね」。その家の隣家も同じような理由で遠くに避難している。これもまた、いわきの現実の一面には違いない。


   帰りは「左助」を探すために、夏井川河口から左岸堤防へと回った。「左助」はいなかったが、若い人たちが何人も岸辺で釣りをしていた。「釣って食べるのかな」「キャッチ・アンド・リリースだって」。人はそれぞれに現実と向き合い、苦しんだり楽しんだりしている。新盆回りをして見えてきた「点景」だ。

(タカじい)



タカじい
「出身は阿武隈高地、入身はいわき市」と思い定めているジャーナリスト。 ケツメイシの「ドライブ」と焼酎の「田苑」を愛し、江戸時代後期の俳諧研究と地ネギ(三春ネギ)のルーツ調べが趣味の団塊男です。週末には夏井川渓谷で家庭菜園と山菜・キノコ採りを楽しんでいます。
■ブログ http://iwakiland.blogspot.com/

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