野田佳彦首相に対する問責決議が参院で可決した。野党7会派の案を自民党が支持した格好だが、そこには消費増税を推し進めた自民への非難の内容が含まれていた。それでも賛成したことに、驚きの声が上がっている。
自民・谷垣禎一総裁は「小異にこだわっていては大きな目標は達成できない」と話したが、「自己否定」ともいえる行動に「迷走」「意味不明」と首をかしげる意見も少なくない。
決議が重要で「理由」は会派の考え方に過ぎない
賛成129票、反対91票――。野田首相の問責決議は2012年8月29日、参院で可決した。当初、問責決議は野党7会派と、自民、公明両党によるものと二つの案が浮上していた。自公側は、首相が「内政、外交上の失敗により、国益を損ない続けた」との理由を挙げたが、7会派側は「消費増税」「3党合意」に対する批判を提出理由に据えていた。つまりこれは、自公に対する批判でもある。
折衝の末に折れたのは自公側で、7会派による問責決議が参院に出された。提出理由には、こう書かれている。「国民の多くは今も消費増税法に反対しており、今国会で消費増税法を成立させるべきではないとの声は圧倒的多数となっている」。さらに「最近の国会運営では民主党・自民党・公明党の3党のみで協議をし、合意をすれば一気呵成(かせい)に法案を成立させるということが多数見受けられ、議会制民主主義が守られていない」と指弾。続けて「参議院で審議を行うなか、社会保障部分や消費税の使い道などで3党合意は曖昧なものであることが明らかになった」と断じている。
名指しで批判された公明は、採決を棄権した。ところが、もう一方の自民は賛成に回った。政党としての活動内容を痛烈に批判されながら、「その通りです」とばかりに認めるとは何とも奇妙だ。
自民の参院議員の中には、可決後にブログやツイッターで発言している人がいる。世耕弘成議員は8月30日付のブログで、「国会の決議においては決議文自体に対する賛否が問われる」と説明した。つまり首相を問責するか否かを採決するのであり、「決議案に付随する『提案理由』は、提出した会派の考え方が示されているに過ぎ」ないと強調。7会派側が自公を非難しているのは「近視眼的」としつつも、だからといって問責に反対、棄権するわけにはいかないというわけだ。礒崎陽輔議員もツイッターで、「自民党が妥協しなければ、問責決議案は、自公案も、少数会派案も、いずれも可決されず、民主党が喜ぶだけのことになりました」と、首相の問責こそが重要だった点を主張している。山本一太議員はテレビ局の取材に対して、「なかなか分かりにくい点もありますが、しっかり説明していく必要があると思います」とこたえている。
理由なしでの問責決議「出さないほうがまし」
谷垣総裁は可決を受けて、「1日も早い衆院解散」を首相に迫っていくと語気を強めた。3党合意の際に野田首相は「近いうちに解散」としたものの、詳しい時期は明言していない。だが問責決議の提出理由の文面を見ると、「首相の責任は極めて重大」という指摘しかなく、解散を迫る文言は入っていない。8月29日放送のテレビ朝日「報道ステーション」ではこの点を指摘。過去の自民政権下で行われた問責決議では、例えば2008年の福田康夫首相に対してのものでは明確に「総辞職か衆院解散せよ」という趣旨の文言が入っている。ところが今回は、何を求めているのかが不明瞭なのだ。
国会で審議されるのは「提出理由」ではなく決議の賛否であり、だからこそ自己矛盾につながる「小異」を捨ててでも問責を優先したという自民側の説明を聞くと、ではなぜ公明は採決を棄権したのかという疑問が残る。山口那津男代表は「我々は筋を通した」「3党合意、一体改革の重要性をしっかり国民に理解していただくことが重要」と話している。提出理由の中身で批判されたことに反発したからこそ棄権したのではないか、ともとれる。自民党内でも、丸山和也議員は棄権、造反した。ブログでは「茶番劇の問責決議」としたうえで、「理由なんてどうでも良いと言う馬鹿がいるが理由無しで、いちいち問責決議だすなら、そんなもの全く価値が無いから、出さないほうが余程ましだ」と痛烈に批判した。
野党7会派側では、「国民の生活が第一」の広野ただし副代表は「民自公の問責も色濃く含まれている」と発言。みんなの党の松田公太議員は問責決議の提出前、ツイッターで、「(野党7党の問責決議案に)自公が乗ったら、決議案理由の『増税反対』『3党談合反対』に乗ることに」と投稿していたが、その後実際に自民が賛成に回ったことから「朝、これを呟いた時は、まさか本当に乗って来るとは思いませんでした」と驚きを隠さなかった。
ツイッター上では「自民党、完全に意味不明」「無節操」「消費税に賛成しながら、消費税を理由に問責」など自民に対する厳しい見方が多い。今のところ「問責決議が重要、理由は二の次」というロジックは、あまり浸透していないようだ。