「目の付けどころ」が鋭い! 生き物の「生体模倣」で新製品開発

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   動物などの形態や特性、デザインにヒントを得て、工学や材料科学、医学などで、製品の機能を高める技術が注目されている。「バイオミミクリー(生物模倣)」「バイオミメティクス(生体模倣技術)」と呼ばれる研究分野だ。

   厳しい環境を生き抜いてきた動植物の体の仕組みは、新製品の開発現場に斬新な機能やアイデアをもたらす。少ないエネルギーで強い水流を起こす洗濯機や汚れにくい外壁材、微細な毛を集めて吸いつくシートなど、その成果はさまざまな分野で生かされつつある。

イルカ尾びれや猫の舌をヒントに

   メーカーの中でも、この技術を活発に取り入れているのがシャープだ。まず、イルカの生態を応用した縦型洗濯機。底面に設置している水流を起こす羽根「パルセータ」の表面に、イルカの表皮のしわを再現した突起をつくるなどして水の摩擦抵抗を低減して強い水流を作ることに成功した。

   さらに、パルセータの裏側にイルカの尾びれのような三日月翼を4方向に配置し、ドルフィンキックの要領で裏側に流れ込んだ水を掻き出すことによって、複雑な強い水流を実現した。

   分かりやすく言うと、「モーターを強化せずに強い水流を作り出した」ということで、その結果、洗浄力が15%アップし、洗浄ムラは3割低減、洗浄時間や消費電力は18%、水量は15%減り、生地の傷みも低減したという。

   同社のサイクロン掃除機「EC-WX300」「EC-VX300」は、ネコの舌の特徴をまねた機能を導入した。吸い込んだほこりなどを圧縮する回転羽の表面に、とげ状に並べたネコの舌のようなザラザラした幅1ミリ程のトゲ状の突起が、ほこりなどをうまい具合に絡み合わせゴミを10分の1に圧縮し、捨てる手間を省く。毛繕いをするネコが舌で絡め取った毛玉を飲み込んで吐き捨てるのを参考にしたという。

   このほか、約3年前にも、エアコンの室外機にアホウドリやイヌワシの羽の形をまねたファンを導入し、回転効率を4割改善。エアコン本体のファンにも、断面のギザギザの形状が風圧に逆らわない風の流れを作るトンボの羽を応用し、省エネ・低騒音を実現した。さらに、ひらひらと飛ぶチョウの羽の「くびれ」を導入して、ムラなく柔らかい風を送れる扇風機の羽根を作った。

ナノ単位の技術進歩で拍車

   LIXIL(リクシル、旧住生活グループ)は、カタツムリの殻の表面に何本も走る幅数百ナノメートル(1ナノは10億分の1)の溝に、水がたまって油をはじく仕組みを活用し、建物の外壁の表面にナノレベルの薄い水の膜を張って汚れにくくする「ナノ親水」を開発。傘や防水服に使われる帝人ファイバーの撥水生地はハスの葉の表面の凸凹を再現し、水をはじく。

   三菱レイヨンは、夜行性の蛾の目の中に数百ナノメートルの規則的な突起が並び、光を屈折させて反射を防いでいる仕組みを、液晶テレビや携帯電話などの反射防止フィルムに応用。日東電工は、直径0.2マイクロメートル(1マイクロは100万分の1)の無数の毛が生えているヤモリの足裏の吸いつきを参考に、ナノメートル単位の毛を持つ粘着剤を使わない粘着シートを開発したほか、関西大システム理工学部(大阪府吹田市)の青柳誠司教授(メカトロニクス学)のチームは、蚊の口のように表面をギザギザに加工し、採血時の痛みを軽減する注射針の研究を進め、医療機器ベンチャーのライトニックス(兵庫県西宮市)が製品開発し、来春にも海外で発売するという。

   日本ペイントは、マグロの皮膚が海水と摩擦が起きにくい仕組みを参考に、燃費を向上させる船舶用塗料を製品化。大きいものでは、欧州のエアバス社が、A380を開発した際、ワシの翼の先のように先を上方にちょっと曲げることで浮力を保ちながら翼を短くすることに成功した――といった具合だ。

   古くは絹の構造をまねたナイロン、音波で障害物やえさを感知する蝙蝠を参考にした船舶用ソナーも、バイオミミクリーの「古典」といえるが、最近は、電子顕微鏡に代表されるナノ単位の技術の進歩で、バイオミミクリーも新たなステージに登っており、新たな製品が今後も続々と登場しそうだ。

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