中国経済が急激に悪化するなか、中央政府が思い切った景気浮揚策を打てないでいる。
欧州連合(EU)の債務危機をきっかけとした輸出の減少が中国内の生産活動に波及し景気が低迷する一方で、金融緩和によって不動産バブルの再燃が懸念されるためだ。
中国は「危険領域」に入りつつある
中国の不動産バブルの崩壊を懸念する声はあちらこちらで聞かれる。2012年8月21日には、日本銀行の西村清彦副総裁がシドニーで開かれたオーストラリア準備銀行(RBA)と国際決済銀行(BIS)共催のカンファレンスで、中国の急激な住宅価格の上昇と少子高齢化などの人口動態の変化を踏まえて「不動産バブルと住宅ローンの急増が一致すると、金融危機が発生しやすくなる。中国は『危険領域』に入りつつある」と指摘した。
2011年まで投資をけん引してきた不動産分野だが、厳しい不動産規制で陰りが見えていて、中国ではすでに上海市や浙江省など沿岸部の不動産バブルは弾けているとされる。
ニッセイ基礎研究所経済調査部門の三尾幸吉郎・上席主任研究員は、「リーマン・ショック後の、4兆元もの景気浮揚策が効きすぎました。ムダな公共事業に資金をつぎ込み、地方政府が財政赤字に陥った」と話す。
地方政府の債務は、2008年に30%半ばだった国民総生産(GDP)に占める債務の割合が、わずか2年で10ポイントも上昇し45%にまで膨らんだ。
三尾氏は「地方政府が企業を誘致できなければ、投資したオフィスビルや商業施設がゴースト化する懸念もある」という。
一方、景気が減速するなか、中央政府と中国人民銀行(中央銀行)は6月と7月に利下げに踏み切った。金融緩和の効果がある預金準備率の引き下げについても、11年12月から3回も実施。早ければ8月中にも再度の引き下げ観測もあり、それでも効き目がなかったら、「もう一段の利下げを行うだろう」と、あるシンクタンクの研究員はみている。
小刻みな金融緩和を繰り返す中国政府のやり方に、その研究員は「いま中国が思い切った景気浮揚策をとれないのは、再び不動産バブルを引き起こし、さらに膨らませる可能性があるためです」と指摘する。
中国も「省エネ住宅」を政策支援?
前出のニッセイ基礎研究所の三尾氏は、「現状では不動産価格がバブル化したのは浙江省などの一部で、北京市や天津市などは横ばいから2~3%程度の上昇にとどまっています」と話す。
その半面、中国の賃金上昇率は前年度に比べて13.1%も伸びているので、浙江省のように住宅価格の上昇(17~18%増)がそれを上回らなければ、十分に購入できる価格水準にあるし、価格の下落はこれから購入しようという人にはむしろ買いやすくなっている。
「中央政府は投機的な動きは抑えようとしていますし、そのためにはある程度の価格下落も許容しているようです」と、三尾氏はいう。
住宅市場が動けば、結果的に消費も増え、景気回復に大きく寄与する。しかし一方で従来型の財政支援策、つまり道路や「ハコモノ」といった公共投資では立ち行かなくなることも中央政府はわかっている。三尾氏は、「現在、中国は省エネや環境保護、バイオなどを『戦略的新興産業』に位置付けており、省エネ住宅などに向けた政策支援を打ち出していく可能性が高いでしょう」とみている。