1956年以来の歴史的な干ばつに見舞われている米国で、トウモロコシの価格が急騰している。
米国内でトウモロコシは、エタノールの精製から畜産飼料まで使途が豊富。ただ、生産量が激減するなかでエタノール用を減らさなければ、トウモロコシのみならず、飼料や食料価格の高騰が止まらないとの声が世界中で強まっている。
いまも史上最高値の水準で推移
「コーンベルト」と呼ばれる一大産地を有する米国のトウモロコシは、世界生産量の4割を占めている。例年であれば7月下旬ごろには2メートル程度まで生育しているトウモロコシだが、2012年は6月以降の干ばつ被害でその半分にも達しないほど、育っていない。
米農務省(USDA)が8月10日に発表した8月の穀物需給見通しによると、トウモロコシの国内在庫はほぼ底を付く状態になると見込まれている。
トウモロコシの生産量は推定108億ブッシェル(1ブッシェル=25.4キログラム)と、1995年以来の低水準となる見通し。前年と比べて13%減少。USDAはトウモロコシの生産量見通しを17%下方修正した。期末在庫はわずか6億5000万ブッシェルまで減少するとされる。
国連食糧農業機関(FAO)は、「このままでは2007、08年に匹敵する食糧危機に直面する恐れがある」とみている。
これらを受けて、穀物の国際価格の指標となるシカゴ商品取引所のトウモロコシ先物価格は6月初旬から5割超も上昇し、いまも史上最高値の水準で推移する。
東京穀物商品取引所(TGE)でも上昇傾向にある。8月21日は出来高が多い13年9月限のトウモロコシ先物価格が前日比490円高の2万8940円を付けた。
ただ、東京市場では輸入コストや為替レートなどの影響もあって最高値の水準には及ばない。「最高値は2008年に5万円を付けたことがあります」(TGE)と話す。
国際通貨基金(IMF)がまとめた「穀物等の国際価格の推移」によると、これまでのトウモロコシの最高値は08年6月の1トンあたり287.11ドルだった。それが11年7月に300ドル台に乗ると、上がり下がりを繰り返しながら12年7月には332.95ドルにまで上昇した。
エタノール燃料「規制」で飼料や食料に回らない
米国は原油の輸入依存度を引き下げることなどを目的に、エタノール燃料の使用量を2015年に150億ガロン(1ガロン=約3.78リットル)まで増やすよう義務付ける規制を設けている。
エタノール燃料をガソリンの「代替燃料」にしようというわけだ。2011年には全米で生産するトウモロコシの約38%をエタノール燃料向けに消費した。
トウモロコシが畜産飼料や食料に回らなくなった背景には、こうしたことがある。
国連は、米国にエタノール生産の即時差し止めを求めた。フランスやインド、中国など主要20か国・地域(G20)も、米国のエタノール燃料政策への懸念を表明している。
国連食糧農業機関(FAO)は、米国は干ばつでトウモロコシの生産量が激減したにもかかわらず、12年も生産量の約40%が規制に基づいてエタノールの精製に転用される見通しであると警告している。
8月10日付のフィナンシャル・タイムズ紙に寄稿したFAOのグラジアノ・ダシルバ事務局長は「規制で課したエタノールの使用量を即時差し止めれば、市場価格の騰勢は一服し、食料や飼料に回るトウモロコシが増える」と主張した。
こうした動きに、米環境保護局(EPA)もようやく重い腰を上げたようで、8月21日にはエタノール燃料規制の見直しに着手したことが伝えられている。