現役記者は「記者をクビにするのは理解できない」
実は「取材メモの誤送信」は8月1日、一部ニュースサイトで記事として掲載されていた。そこには誤送信されたという取材メモの全文も掲載され、情報源がわかる状態になっていた。それによると、この贈収賄事件を警察が内偵しているということは朝日新聞をはじめ記者クラブでは既に知っている社があったという。
一般的に贈収賄事件は、情報を入手しても捜査の進み具合などもからんで記事を書くタイミングが難しいとされる。すでに情報を入手していた社は、書く時期を見計らっていたのかもしれない。実際に警部補が逮捕されたのは7月25日。このあと毎日新聞には、すでに20日に、この警部補に毎日の記者が疑惑を問いただしていたという記事が掲載されている。
読売新聞西部本社は記者の諭旨免職、井川隆明取締役編集局長の役員報酬2か月30%返上のうえ更迭、井川聡社会部長を降格などとする処分を決めた。
インターネット上では「過失でこの処分は重すぎではないか」という意見も出ているが、読売新聞記者行動規範には、取材源の秘匿について「最も重い倫理的責務である」と規定している。これを破ったこと、対応が不手際だったことが重大視され、今回の大掛かりな処分につながったようだ。
今回の事件は、メールで取材班の情報を共有することが日常化しているマスコミ関係者に衝撃を与えた。
ツイッターで、朝日新聞記者の神田大介氏は疑問を投げかけている。個人の見解ということだが、現場の記者より、安易にメールで取材メモを共有させていた側に問題があるのでは、という。
「もちろん誤送信はいけません。しかし、そもそも取材メモをメールさせていたのって、誰なの。秘匿すべき取材源の情報を含むメールを送信していたのは、100%この記者の個人的な意思によるものなの。たぶん違うでしょう。メールによる取材メモ共有って、広く行われていますからね」
また、ニュースサイトに流出した取材メモの内容にあることを紙面で報じてしまったため、流出内容が事実であると認めてしまったも同然だと指摘。記事化は現場の記者の判断ではないはずとした上で、「どう考えても、末端の記者をクビにして責任を取るというやり方は理解できません」とツイートした。
8月14日の毎日新聞の夕刊では、元読売新聞記者のジャーナリスト、大谷昭宏さんが「最大の問題は誤送信した取材メモの事件について、記事にしたことだ」とコメント。誤送信の内容を記事で裏打ちしたことで「情報源に二重の苦痛を与えることになった」。デスクや社会部長が根本的な過ちを犯したと指摘している。