島根県・竹島をめぐって韓国が領有権を主張する動きを過激化させるなか、日韓の経済協力に関するひとつの取り決めに焦点が当たっている。金融市場安定を目的とした「通貨スワップ(交換)協定」だ。
日本側が総額700億ドルの融通枠を設定しているが、竹島問題で攻勢を強める韓国に「手厚い保護などやめてしまえ」と非難の声が上がり始めた。
あくまでウォン相場の安定が目的
1997年のアジア通貨危機の教訓から、アジア域内の金融協力の必要性が重視され、2000年に開かれた日本、中国、韓国と東南アジア諸国連合(ASEAN)蔵相会議では、自国通貨と外貨を交換する「通貨スワップ協定」の締結推進を盛り込んだ「チェンマイ・イニシアチブ」(CMI)が合意に達した。今日、日本が2国間で協定を結んでいるのは韓国とインドだ。
韓国では、アジア通貨危機で通貨「ウォン」が大暴落し、国際通貨基金(IMF)の管理下に入り救済措置を受けた。日韓の協定は2001年、財務省と韓国銀行の間で上限20億ドルのドル・ウォンによる一方的交換が最初だ。その後、2008年9月のいわゆる「リーマンショック」の際にもウォンが急落し、日本に加えて米国や中国とも協定を結んでいる。
2011年10月19日、政府は韓国との通貨スワップ協定の融通枠を、従来の総額130億ドルから700億ドルへと大幅に引き上げた。この時は欧州の信用不安が拡大した時期で、ウォンがまたも大幅に値を下げていた。CMIに基づく金融危機の際の対応額は100億ドルに据え置いたが、日本銀行と韓国銀行との間の円・ウォンによるスワップを30億ドルから300億ドルと10倍に拡大。加えて財務省と韓国銀行とで新たに米ドル・ウォン交換300億ドルの融通枠を設けた。さらに政府は2012年5月3日、韓国国債の購入を明らかにした。日中韓による「国債持ち合い」が成立し、金融のさらなる安定を図るためだとの説明だった。
協定の増枠を報じた日本経済新聞2011年10月20日の記事によると、目的はあくまでウォン相場の安定で、「日本が外貨の提供を受ける事態は想定していない」という財務省幹部の話を引用している。外務省が2012年7月付で発表した「韓国経済と日韓経済関係」によれば、11年10月5日の為替相場では100円=1561.6ウォンだったが、その後はウォン高傾向で12年8月14日には100円=1436.9ウォンとなっている。協定が一定の効果を発揮したのだろうか。
片山さつき議員は「凍結」主張
この協定には、日本が韓国経済の危機を防ぐ面はあるようだが、日本側のメリットは見えにくい。特に最近は、李明博大統領の突然の竹島訪問や、ロンドン五輪サッカー男子の3位決定戦で、韓国代表の朴鍾佑選手がピッチ上で「独島(竹島の韓国側の呼称)はわが領土」と書かれた紙を掲げるなど、日本側を刺激する出来事が相次いでおり、「韓国を助けるための協定が必要か」といった声も出始めた。それでも政府は8月13日、通貨スワップ協定や韓国国債の購入についての合意事項を変更しない方針を表明。インターネット上には「こんな協定さっさと破棄してしまえ」「なんてお人好し」と政府の「弱腰」に抗議する書き込みがあふれた。
協定について当初から批判的なのが、自民党の片山さつき参院議員だ。700億ドルの増枠が発表されて間もない11年10月25日付のブログでは、増枠で新設された300億ドルには「IMFのプログラムが、全くついていない」と指摘した。つまり何の条件も制約もないまま、巨額の「貸し出し」が約束されたようなものだ。その後12年5月10日のブログで、「IMFを通さない支援は、万が一のとき、返ってこないので、危ない」と片山議員らが指摘したこともあり、政府側が「(韓国)国債を担保にとる、韓国の外貨準備が一定以上あるときしか、協定を発動しない、などと、かなりの条件はつけた」のだという。
日本側にとってかなりの悪条件にみえるが、それでも簡単に「破棄」とはいかないかもしれない。日本貿易振興機構(JETRO)が公表している日本の貿易動向を見ると、2011年度の輸出額で韓国は中国、米国に次いで多い。しかも日本側の慢性的な黒字だ。仮に韓国が経済的に苦境に陥れば、韓国と取引関係にある日本企業が売り上げを回収できなくなるケースも考えられる。世界に目を向けると、日韓は輸出品で競合する部分が多く、過度のウォン安が続けば日本に不利となる。ウォン安を防ぐのは、金融不安の払しょくだけでなく、日本側の事情をある程度加味したものとみられる。
それでも片山氏は、日韓取引の決済通貨の7割が日本円にもかかわらず、新設した300億ドルの融通枠は米ドル・ウォンという点に、疑問を投げかける。そのうえIMFのような国際機関が絡んでいないとなれば、信用面での懸念は拭えない。8月11日付のブログで片山氏は、竹島問題の「対抗措置」のひとつとして「日韓スワップ協定の凍結」を挙げた。
協定の700億ドルのうち、増額となった円・ウォン通貨スワップの300億ドル分は10月末までの「期間限定」だが、「IMFを通さない支援で危ない」と指摘された300億ドルの「新設枠」に期限は定められていない。