(ゆいっこ花巻;増子義久)
「あれっ、こんな神秘的な光って見たことがない。すごいなぁ」―。樹林帯の岩陰をのぞき込んだ福島っ子の間から感嘆の声が上がった。武田泰淳の小説『ひかりごけ』で一躍有名になったコケ植物「ヒカリゴケ」が目の前でエメラルド色の光を放っていた。北海道や本州の中部以北の洞窟や岩陰に自生する貴重な種で、原糸体の細胞が外部の光を反射する仕組みになっている。
「イーハトーブ」を体感するプロジェクト最終日の6日は前日の北上川から一転して修験の山・早池峰山(花巻市大迫町)へ。日本百名山に指定され、北上山地の最高峰(1917メートル)のこの山はハヤチネウスユキソウやナンブトラノオなど高山植物の宝庫としても知られている。が、気がかりは「下界は晴れでも雨がっぱ」と言われる天候のめまぐるしい変化。案の定、小田越えの登山口に到着した途端に雨模様になって登山は断念。
気落ちした子どもたちの目が輝いたのはその直後だった。早池峰山と対峙する薬師岳(1644メートル)に足を踏み入れて約10分後、山道のあちこちに神秘的な光の塊(かたまり)が…。「前に読んだ子ども向けの本の中にヒカリゴケが出ていた。よくは覚えていないけど、確か伝染病を治す力があるんだって…。本物を見たのはもちろん初めて。自然ってすごいなあ」。郡山市立安積第3小学校4年の遠田一真君(9)が感動しきり。同級生の菱沼創太君(9)が相槌(あいづち)を打った。「おい、この谷川の水は飲めそうだぞ。福島にはこんな所はないもんな」
「この子たちはまた明日から放射能におびえながらの生活に戻らなくちゃならない。それが不憫で…」。長女の小学5年生、日陽里ちゃん(11)と次女の彩花里ちゃん(2)を連れて、郡山市から参加した伊東亜由美さん(36)が傍らで声を落とした。同市内の屋外活動の制限は解除されたというが、公園や学校での外遊びはまだ制限付き。「今年5月、日陽里が学校で貧血で倒れたことがあった。原発事故以来、長期間にわたって外遊びが出来なかったため、体力的にも精神的にも免疫力が落ちているのではないか」と伊藤さん。
「僕はもう、慣れてしまったよ」と菱沼君が口を添えた。その口調は「あきらめ」の裏返しのようにも聞こえた。放射能禍に自分なりに必死に対応しようという気持ちがひしひしと伝わってきた。子どもたちに対して、そう仕向けることの残酷さ―。今回のプロジェクトで得た最大の教訓はそのことだったような気がする。 今日6日、日本は広島への原爆投下から67年目の夏を迎えた。
ゆいっこ
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