高橋洋一の民主党ウォッチ
民主も自民も「解散」めぐり右往左往 ささやかれ始めた「野田首相花道論」

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   8月8日というと、2005年の郵政解散を思い出す。筆者は竹中大臣室で参院の郵政民営化法案の採決結果を見ていた。事前に否決されるという情報があり、その後の動きをおさらいしていた。もちろん解散は総理の専権事項なので誰も知らない。多くの自民党議員は考えなかったかもしれないが、我々スタッフは否決されれば解散すると思っていた。そして実際、小泉総理は郵政民営化是か非かで国民の信を問うた。

   今日2012年8月8日も、国会における自公を除く野党からの内閣不信任案提出やそれに触発されて自民もそれに同調する動きがある。それに対して、全国新聞各紙は否定的だ。7、8日の各紙社説では、日経「最優先すべきは消費増税法案の成立だ」、読売「内閣不信任案 一体改革を党利党略で弄ぶな」、朝日「民・自対立―3党合意に立ちかえれ」、毎日「混迷する国会 政争の愚を党首は悟れ」、産経「野田首相 政治生命かけ解散決めよ 問責前に党首会談で打開を」と、いずれも、消費税増税を決めた3党合意を遵守して、消費税増税こそが最優先だと主張している。

みんなの党などが内閣不信任案

   新聞各紙はこれまで消費税増税を決める政治だと絶賛してきたので、それが成立目前なのに、何を余計なことをしているのかということだろう。

   しかし、消費税増税のように、国論を二分する政策課題について、国民の信を問う前に決めるというのは横暴だ。しかも、民主党はマニフェストでは消費税を言わずに、政権交代の時には消費税増税はやらないと言ったにもかかわらず、国民とは関係のない党内プロセスのみで消費税増税を決めた。これだけで消費税増税の正統性はない。

   今日8日のドタバタには伏線がある。7月下旬からすでに水面下での動きがあったが、8月7日、渡辺喜美みんなの党代表が主導して自公を除く野党で、参院採決前に内閣不信任案を衆院議長へ提出した。この一石は強烈だった。一見党利党略にみえるが、実は消費税増税をストップさせるには「理にかなった」ものだ。

新聞社説は「増税優先」で一致

   この一連の動きにあたふたしたのは、「野党」である自民だ。もともと野党は解散総選挙を求めるものだ。しかし、増税をしたい自民は3党合意を優先し、消費税増税法案を先行させてきた。それが、自公を除く野党の内閣不信任案提出と党内若手からの3党合意破棄の動きから、「会期内解散を確約せよ、さもなくば内閣不信任案・問責を提出する」との強硬姿勢になった。

   本稿締め切り(8日午前)の段階では、民主は、自公との国対委員長会談で、「消費税増税法案が成立した暁には、近い将来、信を問う」という野田首相の考えを伝え、3党の党首会談の開催も要請した。ただし、自民はこの回答に満足せず、再回答を要求している。

   民主にもマニフェスト違反という致命的なミスがあったが、自民も3党合意を優先したのは痛い。これで解散となっても、民、自、公は消費税増税で同じだ。「近い将来、信を問う」というが、「近い将来、3党連立で信を問う」と悪い冗談ではないか。

   今回の消費税増税の仕掛け人である財務省なら、どのような手で収めるか。それは、消費税増税の成立と引換に野田首相が退く野田花道論だろう。これは野田首相以外の民主にとっては好都合だ。自民も解散ではないが許容範囲だろう。何より財務省にとっては首相は誰でもよく、消費税増税が成立するのであればいい。こう考えると、新聞各紙の社説が消費税増税を優先せよとの一致しているのは妙に不思議なのである。


++ 高橋洋一プロフィール
高橋洋一(たかはし よういち) 元内閣参事官、現「政策工房」会長
1955年生まれ。80年に大蔵省に入省、2005年から総務大臣補佐官、06年からは内閣参事官(総理補佐官補)も務めた。07年、いわゆる「埋蔵金」を指摘し注目された。08年に退官。10年から嘉悦大学教授。著書に「財投改革の経済学」(東洋経済新報社)、「さらば財務省!」(講談社)など。


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