サッカー女子日本代表「なでしこジャパン」が、ロンドン五輪サッカー女子の準々決勝でブラジルに2-0で勝ち、4強に名乗りを上げた。2011年のサッカー女子ワールドカップ(W杯)に続く「連覇」へ1歩前進だ。
予選1次リーグの南アフリカ戦では、佐々木則夫監督が選手に「引き分け狙い」を指示したと明かし、物議をかもした。だが作戦が奏功して準決勝にコマを進めたことで、「佐々木監督、ごめんなさい」と謝る人も出ている。
南ア戦後「必ずしっぺ返しを食らう」との論調も
「闘志の守備ですよ」
強豪ブラジルを破った英国時間2012年8月3日の試合後、佐々木監督は激闘を制した選手を称えた。この日のなでしこは、立ちあがりからブラジルの猛攻を堅実な守備で耐える時間が多かった。少ない得点機から、前半27分にMF沢穂希選手が相手の一瞬のすきを突く素早いリスタートから前線にパスを出し、FW大儀見優季選手が決めて先取点を奪った。追加点も後半28分、カウンターからFW大野忍選手がチャンスをものにした。
負けたら終わりのトーナメント。そのうえ、1次リーグの南ア戦で起きた「引き分け指示騒動」でチームへの重圧は増えていたかもしれない。南ア戦後、佐々木監督の戦術をめぐって批判的な論調が出ていたからだ。8月1日付の日本経済新聞電子版には「なでしこ、フェアプレー精神はどこへ」と題した記事が掲載された。引き分け狙いの姿勢に疑問を呈し、「準々決勝で勝つこと以外にこの試合の『汚名』をそそぐことはできない」とした。別の記事ではライターが、「『勝たなくていい』という指示は、五輪精神、スポーツマンシップに反している可能性が強い」「調子こいて生ぬるい試合をするチームは、必ずしっぺ返しを食らうと思う」と厳しいトーンで書いていた。
インターネット掲示板でも、この戦略には賛否が分かれていた。予選2位通過なら、長距離の移動なしで次戦に臨めるのは確かに選手の負担が軽減される。それでも「こういう事やるチームは敗退する」「何かガッカリした」と批判的なコメントは少なくなかった。
だが、思惑通りブラジル戦で勝利を飾った今、風向きは変わったようだ。ネット掲示板には早速「二位通過で正解でした。ごめんなさい」「のりおに土下座しないとな」「正直スマンかった」と、佐々木監督に「謝罪」する書き込みが並んだ。
ブラジル監督「優勝候補にふさわしくない」
試合前にはネット上で監督を批判していた人が、好結果が出て一転「ごめんなさい」と書き込む――。似たような現象が、2010年のサッカーW杯南ア大会でも見られた。岡田武史監督率いる日本代表は大会前、調子が上がらずに下馬評は決して高くなかった。岡田監督への批判が相次ぎ、予選リーグ全敗の予想まで出たほどだ。ところがふたを開けてみれば、2勝1敗で見事16強入りを果たした。予選突破を決めたデンマーク戦後、ネット掲示板には「岡田監督に謝ろう」と、続々と謝罪コメントが投稿されていった。
だが、なでしこの場合はW杯を制した「チャンピオンチーム」。4強入りしただけでは完全に「引き分け騒動」を払しょくできないかもしれない。佐々木監督は「我々は五輪では挑戦者」と強調しているものの、日本中が期待しているのは金メダルとハードルが高いからだ。
各国もなでしこを「目標」として戦っている可能性は高い。ブラジルのバルセロス監督は敗戦後、日本が守備的な戦術をとったことに失望するようなコメントを発したうえ、「今日のようなプレーを続けるなら、優勝候補と呼ばれるにはふさわしくない」と話したという。負け惜しみにも聞こえるが、なでしこが「女王」と見られているからこその「嫌み」だったとも考えられる。ブラジル戦の勝利で批判はいったん静まった形だが、外野の声を封じるためにはあと2試合、勝ち続けるしかなさそうだ。