牛丼大手3社の決算が2012年8月1日出そろった。これまで値下げキャンペーンで売上げを伸ばしてきた業界だったが、各社とも営業利益が大幅に落ち込むなど、厳しい状況となっている。
まず吉野家ホールディングスから見ていくと、第1四半期(2012年3~5月期)決算は、売上高が前年同期比0.5%減の399億円、営業利益は同65.2%減の3億円、最終損益は1億円の赤字だった。
すき家、深夜の複数勤務体制も影響
第1四半期の最終赤字は3年連続。同社広報は原材料の牛肉、米の高騰が響いたとしている。既存店売上げは3月が前年超えをしたものの、4月(前年同期比8.3%減)、5月(同10.5%減)と落ち込み、客数も5月は15%も落ちていた。
松屋フーズの第1四半期(2012年4月~6月期)決算では、営業利益が85%減の1億8800万円、最終損益は87.9%減の6400万円だった。既存店の売上げ、客数ともに前年割れしており、厳しい情勢が伺える。
そして、「すき家」を運営するゼンショーHDだ。売上高は4%増しを維持したが、営業利益は56.8%減の21億円、最終損益は49.9%減の3億5500万円だった。こちらも既存店の売上げ、客数が前年割れしている。すき家に関しては、防犯対策のために導入した深夜の複数勤務体制も減益に影響したという。
「もう値下げでは客は動かない」
3社とも原料の高騰に苦しんでいるというが、コンビニの影響も大きくなってきている。ここ数年でコンビニの総菜コーナーが充実し、店内で調理が行わることも珍しくなくなった。以前から牛丼チェーン店の近くにコンビニが出店すると売上げが落ちるということがあったが、吉野家HD役員は7月下旬の産経新聞記事で「スーパー、コンビニの総菜コーナーは日増しに充実しており、最大の脅威」と話している。
また、松屋フーズ広報は値下げキャンペーンが以前ほど効かなくなったと説明する。2011年、2010年は1年に7~8回も値引きキャンペーンを行い、キャンペーン後には毎回新メニューを投入というサイクルが上手く回っていた。しかし、2011年秋頃から、値引きに対する客の反応が弱くなり、マスコミにも以前ほど取り上げられなくなってしまったという。
2012年8月2日からマグロを使った新メニュー「山掛けネギトロ丼」を販売しているが、今後は値引きだけではなく新メニューや季節限定メニューを投入して「しっかりした価値を提供していきたい」としている。
経済ジャーナリストの中村芳平氏は牛丼チェーンの状況について「値下げで客を呼び込むといっても限度がある。もう値下げだけでは客は動かない」と指摘。更に、これまで牛丼チェーンと言えば吉野家、松屋、すき家が「御三家」として圧倒的に強かったが、居酒屋チェーン「東方見聞録」などを運営している三光マーケティングフーズが始めた牛丼チェーン「東京チカラめし」が急速に伸びているという。
「新宿や渋谷、池袋など、立地がいいところに急ピッチで出店していて、1年ちょっとで90店舗ほどになっている。ここが出している『焼き牛丼』は焼いた牛肉を使っているのが特徴で20~30代の若い人に人気。御三家に圧力をかける勢いです。牛丼以外にも、うどんやラーメンの安いチェーンが伸びていますし、御三家はこれまでのやり方を変えなくてはいけなくなるでしょうね」
と話している。