ロンドン五輪のバドミントン女子ダブルスで、韓国や中国など計4組が「無気力試合」を理由に失格処分を下された。
試合では、お互いがわざと負けようとしているとしか思えない不可解なミスを連発。世界ランキング上位のペアが、なぜこんな「愚行」に走ったのか。
審判員の警告を無視、観客はブーイングの嵐
中国の王暁理選手・于洋選手ペアは世界ランキング1位。対する韓国の鄭景銀選手・金ハナ選手ペアも同8位だ。英国時間2012年7月31日に行われたバドミントン女子ダブルスの予選リーグ、両組とも既に決勝トーナメント進出を決めているとはいえ、観衆はトッププレーヤー同士のプライドがかかった息詰まる熱戦を期待していただろう。
ところがふたを開けてみると、試合としてすら成立しないお粗末プレーの連続だ。開始直後、韓国ペアのサーブを中国の選手があっさりとレシーブミス。しかもわざとコート外に出そうとしているように見えるほど、あらぬ方向にラケットを向けている。ランク首位とは思えない凡プレーだ。
試合が進むにつれて、ますます奇妙な展開となる。中盤、リードする韓国ペアが、サーブを簡単にネットに当てるミスで相手に得点が入る。するとサーブ権を奪った中国もまた、サーブがネットを超えない。「負けじ」と韓国も、不必要に大きく打ったサーブがラインをオーバー。中国はまたも、サーブをネット手前に引っ掛けてポトリ――。最初は「あーあ」とため息が聞こえていた観客席からは、次第に失笑が漏れ出し、とうとう不満の声があちこちで上がり始めた。たまらず審判員が両チームの選手をコート中央に呼び寄せ、「このまま勝負をしないのなら、失格もあり得る」と厳重に注意した。
それでも双方とも、この警告に耳を貸さない。再開後の最初のプレーでは韓国ペアのサーブがようやく入り、中国ペアが軽く返す。ところが韓国側の前衛の選手は右腕を伸ばしただけで動こうとはせず、安易にポイントを許した。今度は中国ペアのサーブ、「お返し」とばかりにまたも失敗だ。ミス合戦を繰り返した末に試合は韓国ペアが勝利。だが世界ランク首位を破ったにもかかわらず、2人の選手は二コリともしない。負けた中国ペアも無表情のまま。収まらないのは、終始やる気のないプレーを見せられた観客だ。淡々とコートから引き上げる選手たちに、ブーイングの嵐を浴びせた。
もうひとつの韓国チーム、河貞恩選手と金ミン貞選手のペアも、インドネシアのメイリアナ・ジャウハリ選手とグレイシア・ポリー選手のペアと、同様の無気力ゲームを演じた。両ペアとも、コート上で自分の立ち位置から動こうとせず、シャトルに手が届かなければ「知らん顔」なのでラリーが全く成立しない。たまりかねた主審が、選手に失格を告げる「ブラックカード」を突き付けようとしたほどだ。
中国は金銀独占ねらい、韓国は世界一との対戦避けるため?
五輪精神に反したふるまいの代償は大きかった。世界バドミントン連盟(BWF)は8月1日、無気力試合を行ったとして韓国の2ペア、中国ペア、インドネシアペアの計4組を失格処分にしたと発表したのだ。
なぜそこまでして負けたかったのか。どうやら決勝トーナメントでの組み合わせに解がありそうだ。王・于ペアは、グループ2位通過なら、決勝トーナメントに勝ち上がったもうひとつの中国ペアと別のブロックに入り、決勝まで当たらない。「中国が金、銀独占」というシナリオが現実味を帯びてくる。一方の鄭・金ハナペアはこの試合に勝つと、この後に行われる河―金ミン貞ペアがインドネシアペアに敗れた場合、トーナメント1回戦で「直接対決」となってしまう。だが両ペアとも負けてしまえば、最悪の事態が避けられるというわけだ。
中国の王・于ペアはシナリオ通りに敗れたが、韓国の鄭・金ハナペアは勝ってしまった。このため、続く韓国ペア―インドネシアペアの勝者が、改めて「世界一」の王・于ペアと戦うことに。そこでインドネシアペアはもちろん、河―金ミン貞ペアも、たとえ自国ペアが相手になったとしても「世界一」ペアとの実力勝負は避けたいと判断し、負けようとしたのではないかと推測できる。
BWFの処分を中国は受け入れたが、韓国とインドネシアは抗議した。だが、後にインドネシアは取り下げ、さらにBWFは韓国の抗議を退けたという。中国の于洋選手は8月2日、中国版ツイッター「微博」で競技から引退する書き込みをしたと報じられた。
これで世界ランク1位、3位、8位が五輪の舞台から姿を消し、代わって予選で敗退していた4組が決勝トーナメントに進出することになった。一方、日本の藤井瑞希選手・垣岩令佳選手ペアはトーナメント1回戦でデンマークのペアと対戦した。「無気力」とはほど遠いはつらつとしたプレーでコート狭しと動き回り、長いラリーも制して快勝、4強入りした。失格処分が出ていなければ準決勝は世界1位の王・于ペアと対戦する可能性があったが、実際には繰り上がりで出場するカナダペアと当たることになった。