米国の熱波・干ばつなど世界各地で異常気象が広がり、農産物の被害が深刻になっている。穀物などの相場も高騰、食卓への影響も出始めた。
ビルサック米農務長官は2012年7月18日緊急記者会見し、米国土の6割が干ばつに見舞われているとして、「非常事態」を宣言した。トウモロコシや大豆の世界的産地である中西部を干ばつが直撃。両作物とも8割弱の生産が何らかの被害を受け、凶作の恐れが急速に広がっているという。米海洋大気局の基準では全米の55%が干ばつ状態にあり、1956年以降で最悪の状況だという。
穀物相場が上昇
米農務省が発表した7月15日時点の作柄は「優」と「良」の比率がトウモロコシは31%で前週比9ポイント低下。大豆は34%で同6ポイント低下した。深刻な干ばつ被害で大減産となった88年以来の低水準が続いている。
このため、穀物が高騰。トウモロコシは指標となるシカゴ市場の先物価格が、7月第4週には期近の9月物で1ブッシェル8ドル台に乗せ、昨年6月の最高値(7.9975ドル)を超えた。大豆も期近の8月物が1ブッシェル17ドル台に乗せた。その後、雨が降ってやや下がったが、1ブッシェル9ドル程度の小麦(9月物)も含め、高値圏で推移している。
米国以外でも、世界的なサトウキビ産地のインドでは降雨が不足気味で生育に不安が台頭。コーヒーも産地のブラジルで雨が多くて収穫が遅れている。このため、ニューヨーク市場の先物相場はいずれも値が上昇している。ロシアの天候不安も伝わる。
こうした価格上昇は、欧州債務危機を受けて主要国の中央銀行が超金融緩和策を維持する中、高利回りを狙った投機資金が商品相場に流入していることも一因。小麦は6月中旬まで売り越していたファンド勢が買い越しに転じ、砂糖もファンドの買い越しが6月の2倍に膨らみ、相場を押し上げている。
日本の飼料価格高騰の恐れ
影響は日本の食卓にも及び始めた。日本はトウモロコシの輸入の約9割、大豆は6割以上、小麦は5割超が米国産で「穀物相場の上昇は幅広い食料価格の押し上げ要因となる」(商社)。
日清オイリオグループとJ?オイルミルズは大豆が原料の食用油について、業務用1缶(16.5キロ)を200円、家庭用(1キロ)を10?12円引き上げた。スーパーなどの店頭価格にも影響しそうだ。
穀物が飼料価格に影響して食肉などの値上がりにもつながる恐れもある。全国農業協同組合連合会は7~9月期の飼料価格を1トン当たり900円値上げした。大手食肉会社は「飼料価格の高騰は値上がりの要因にはなる」と推移を見守っている状況だが、明治は、家庭用バター2商品の価格を、9月1日出荷分から3.7~4.1%値上げする。飼料上昇のあおりで生乳の卸売価格が4月分から上がり、コスト負担を吸収できなくなったとしている。小麦は、政府が製粉会社への売り渡し価格を10月の改定時に引き上げる公算が大きい。
2007~08年にかけての世界的な食料高騰時の再来になるのか。小麦はここ1、2カ月で約1.5倍に急騰しているとはいえ、1ブッシェル9ドル程度と、2008年につけた同13ドル台より相当低い。このため、食品メーカーが麺類やパン、菓子類など幅広い品目で一斉に値上げに動いた2008年当時のようなことはないとの見方が多い。
ただ、楽観は禁物だ。食品価格が上昇すれば、米連邦準備制度理事会(FRB)が景気減速に対して金融緩和の追加措置を取りにくくなる可能性がある。日本を含め他の先進国も同様に金融政策のかじ取りは難しさを増しそうだ。さらに、「穀物高騰で相対的に大きなダメージを受けやすい新興国や途上国の経済が減速して世界的な景気下押しリスクが強まる恐れもある」(エコノミスト)。世界経済の不確定要素がまた増えた。