姉を刺殺した発達障害のある42歳の男性被告に、裁判員裁判で求刑を超える懲役20年の実刑判決が言い渡された。その理由に、「社会秩序の維持」を挙げており、識者の間でも論議になっている。
障害を理由に減刑することは、刑事裁判では、よく見られる。この判決が異例なのは、逆に刑を重くしたことだ。
障害者団体などは、「無理解、偏見」と批判
報道によると、大阪市平野区の無職大東一広被告(42)は、大阪地検の精神鑑定で、社会的なコミュニケーションに問題があるとされるアスペルガー症候群と診断された。そのうえで、地検は、大東被告に責任能力はあるとして、殺人罪で懲役16年を求刑していた。
一方、2012年7月30日の大阪地裁判決では、アスペルガー症候群であると認定しながらも、大東被告がまったく反省していないうえ、家族も同居を望んでいないため、社会の受け皿がなく、再犯の可能性があると指摘した。そして、「許される限り刑務所に収容することが社会秩序の維持にも役立つ」として、殺人罪の有期懲役刑の上限を適用した。
判決によると、大東被告は、小学校5年で不登校になってから約30年間の引きこもり生活は姉のせいだと逆恨みした。そして、11年7月25日に生活用品を市営住宅の自宅に届けに来た姉に対し、腹などを包丁で数カ所刺して殺害した。
これに対し、弁護側は、「主張が認められず遺憾だ」として、控訴する構えを見せている。法廷では、障害の影響があったとして、保護観察付きの執行猶予判決を求めていた。
社会秩序維持を挙げた判決について、障害者団体などからは、「無理解、偏見に基づく判決だ」などと批判が出ている。とはいえ、ネット上では、その反応は様々だ。
識者から「裁判員の判断の方が常識」の意見も
判決について、「犯した罪ではなく、出所後の受け皿の有無で刑が決まるとかおかしい」「福祉の存在意義を真っ向から否定する言い分だな」といった疑問は多い。一方で、「病人だとはいっても、このような人間を受け入れられる施設が刑務所以外にあるのだろうか」などと判決を支持する声もあり、「無期禁固でいい」といった極論すらあった。
識者の間でも、意見は分かれているようだ。
日経の記事によると、判決について、板倉宏日大名誉教授(刑法)は「障害がある場合、量刑が軽くなるケースが大半。法律の専門家からすれば違和感が残る」と指摘した。一方、産経によると、元最高検検事の土本武司筑波大名誉教授は「検察側の求刑が軽すぎた。裁判員の判断の方が常識にかなっている。裁判員裁判を導入した成果といえるだろう」と述べた。
発達障害について、家族がいないと社会の受け皿がないというのは本当なのか。
大阪市内で発達障害者の支援に当たるある相談員は、取材に対し、「受け皿は少ないのが実情」と明かす。「グループホームに発達障害に特化したところはなく、どこも満杯です。ですから、社会復帰する施設は、なかなかありません」。
独り暮らしをしたとしても、実情は同様だ。2005年に発達障害者支援法が施行され、自治体が障害者を支援することになっている。しかし、本人が相談などをせずに引きこもっていた場合、行政が乗り込むのは難しいようだ。
ただ、前出の相談員は、判決については、「刑務所に発達障害対応のプログラムがあるとは思えず、理不尽だと思います」と漏らした。