医療機器大手のテルモが、オリンパスに経営統合を提案した。オリンパスは問題となった「損失隠し」を決算書類に反映させた結果、財務体質が悪化しており、同業他社との資本提携を検討中だが、現時点でソニーが最有力となるなか、テルモは統合提案の公表という「奇策」で巻き返しを図った形だ。ただ、ソニーの優位は動かず、オリンパスのモテぶりが改めて目立つ形となっている。
「世界で伍(ご)していけるリーディングカンパニーになれると考えております」。テルモは7月26日に経営統合の提案を発表したリリースでこう強調した。
両社の得意分野は重複していない
テルモによると、世界の医療機器企業(画像診断系を除く)ランキングで、テルモが12位、オリンパスが13位に位置しているが、統合によって5位以内に浮上するという。医療機器は欧米勢が上位を占め、デジタル家電で世界を席巻する韓国企業もまだまだ発展途上国のような位置づけだ。
日本の医療機器市場は輸入が超過し、「その原因は特に治療機器の大半が輸入品で占められていることにある」(テルモ)。このため、テルモは「両社の技術融合により日本発のイノベーションを起こすことで、日本の産業活性化にも貢献できる」と主張することにも、一理あるようにも聞こえる。
実際、テルモは欧州、オリンパスは米国での医療機器の営業に強く、海外市場のシェア獲得でも相乗効果がありそうだ。補完関係は取り扱う製品にもある。テルモが心臓血管治療などに使うカテーテルなどを得意とするのに対し、オリンパスは消化器系内視鏡は世界シェア7割を握るなど、得意分野が重複していない。
しかし、オリンパス側には、経営統合しようなどという雰囲気はかけらもないのが実情だ。
オリンパス内で高まる自主独立路線
「テルモが何を考えているのか、まったく分からない」。あるオリンパス幹部はテルモが経営統合を発表したことに不満を漏らした。テルモは既にオリンパスに2.1%を出資する株主でもある。経営統合を公表し他の株主の賛同を得ようとの作戦でもあるが、なんとか自主独立路線を歩みたいオリンパスにとっては「はた迷惑」とも映っているようだ。
オリンパスにとっては2012年3月末時点で4.6%(事件発覚前の昨年3月末は11.0%)に低下した自己資本比率を高めることが喫緊の課題。資本提携はあくまでその手段であって、経営統合など本格的な業界再編を意図したものではない。また、オリンパスにとっては赤字続きのデジタルカメラ事業の再建も急務な課題である。したがってオリンパスとしては「発行済み株式の1割程度のほどほどの出資」と「デジカメ再建」を望んでいるのだ。
何かと凋落が伝えられるソニーだが、実はデジカメは世界シェア2位に君臨する。オリンパスは調達や物流網の共同化、開発の一元化などで相乗効果は大きいと見ている。
それだけにソニー優位は揺るがない情勢だが、唯一番狂わせがあるとすれば、オリンパス内で高まる自主独立路線によって、ソニーさえも袖を振ることだ。その場合も、テルモとの経営統合はありえない、というのが業界の一致した見方だ。