体操ニッポンの内村航平選手(23)が、得意の鉄棒で落下するなどして苦戦している。しかし、その不調には、伏線があったようだ。日本時間で31日未明からの団体決勝では、不安要因を克服できるのか。
「たとえ、鉄棒から2回落下しても勝てる」。内村航平選手は、NHKスペシャルでこう言われると紹介され、自分の位置を正確に把握できる驚異的な「空中感覚」の持ち主とされた。
台のバネが変わり、器具も滑りやすかった?
内村選手本人も、五輪本番で失敗の不安はないと強調し、直前には「こんなに調子がいいのは初めて」と絶好調ぶりをアピールしていた。
ところが、2012年7月28日の予選では、得意の鉄棒で難度の高いコールマンの技をかけようとして落下し、あん馬でも落下した。他の選手も落下するなど日本は大きな失敗を繰り返し、後半戦にやや持ち直したものの、団体で5位に沈んだ。
内村選手本人も、落下などの影響で、個人総合は9位と振るわなかった。事前報道では、日本選手として1大会最多の5つの金を狙うとされた。だが、種目別で決勝まで進めたのは、ゆか運動だけだった。
自らの失敗について、内村選手は、原因は分からないとし、「今まで何をやってきたのか分からない」と報道陣にこぼした。
「スーパーマン」と言われ、世界選手権を3連覇している内村選手に、一体何があったのか。
04年のアテネ五輪団体金のメンバーだった大阪大谷大専任講師の水鳥寿思(ひさし)さんは、会場の体操器具が内村選手に合っていなかった可能性を指摘する。鉄棒などが、日本のセノー社製より硬いとされる仏ジムノバ社製だったからだ。
「鉄棒を放すタイミングが遅かったので、器具の感じが違うのかなと感じました。練習のときと違って、本番では新品を入れて、台のバネが変わっていたり、器具が滑りやすくなっていたりした可能性もあると思います」
ジムノバ社製は、パワー型の欧米選手に有利?
もちろん、日本チームも、ジムノバ社製の器具を2012年5月から導入して準備はしてきた。しかし、報道によると、内村航平選手が7月14日にフランスで本番に使用される器具を使ったところ、よけいに硬くなっており、鉄棒などに普段にはないミスが出た。
さらに、ロンドン入りした後の25日に、練習でジムノバ社製の鉄棒などを使ったが、予選本番と同様に落下してしまった。本番では、「自分では持てると思って(鉄棒を)放したが、全然手が届いてなかった」と明かしており、器具の影響があったのかもしれない。ジムノバ社製のは、パワー型の欧米選手に有利ともされている。
とはいえ、前出の水鳥寿思さんは、だからと言って欧米選手がずるいことには必ずしもならないと言う。
「本番の器具が違っていたとしても、条件は外国の選手と同じですからね。内村選手は、器具の問題のほか、前の選手がミスするなどして、集中できなかったのでしょう。そして、鉄棒の失敗を引きずって、イライラが募っていたのだと思います」
体操のルールが変わり、点数に上限がなくなって、ムリをしてもより難しい技をかけるようになったことから、ミスも増えているという。