ロンドン五輪のサッカー男子で、日本代表がモロッコ代表を1-0で破り早くも1次リーグ突破を決めた。立役者は、ゴールを決めたFWの永井謙佑選手だ。
初戦のスペイン戦でも永井選手は、自慢の快足を生かしてピッチを走り回りスペインの守備陣をかく乱、歴史的な勝利を演出した。2試合の活躍で、既に欧州のチームが獲得に向けて動き出したとの情報もある。
「仕事の鬼」「またナガイだ」
「キーパーは完全に間に合うと思って出てきたのに、永井選手のスピードが異常に速くて追いつけませんでしたね」
テレビ朝日の情報番組「モーニングバード!」に出演したサッカー解説者の松木安太郎氏は、英国時間2012年7月29日に行われた日本―モロッコ戦で、永井選手の得点シーンをこう振り返った。映像を見ると、MF清武弘嗣選手が中盤から相手DF陣の裏に空いたスペースにパスを蹴り出す瞬間、永井選手が駆け出している。ボールを受けると、あっという間に敵のプレーヤーを置き去りにし、慌てて飛び出してきたGKをもかわしてゴールを奪ってみせた。
永井選手が世界を驚かせたのは、五輪初戦となる現地時間7月26日のスペイン戦だ。前線で90分間、縦横無尽に駆け回って相手守備陣にプレッシャーをかけ続けた。スポーツジャーナリストの木崎伸也氏はJ-CASTニュースの取材に対して、「通常、プレスは組織的に行うものですが、この試合で永井選手は(ひとりで)驚くほどのプレスをかけていました」と舌を巻く。前半41分、スペインの選手がバックパスを受け損ねた瞬間を見逃さず、一気にボールを奪いに行くと相手はたまらずファール。これがレッドカードと判定され「1発退場」となり、日本は後半を数的に有利な状態で進めることができた。また得点には結びつかなかったが、スピードに乗ってゴールを脅かす決定的なシーンは何度もみられた。
スペイン戦勝利の後、海外メディアは永井選手を取り上げた。英大衆紙「デイリー・ミラー」電子版は「『仕事の鬼』と化したナガイ」と、骨身を惜しまず試合を通して走り続けた様子を表現。英ガーディアン紙も「強さ、運動量、ボールタッチ、抜け目なさがある」と高く評価したという。米オンラインスポーツサイト「ブリーチャー・リポート」は試合を再現した分析記事で、「またナガイだ。スペインは日本のスピードをとめる手立てがない」とつづった。
マンU・香川と「日本人ライン」形成?
永井選手は福岡大学からJリーグ、J1の名古屋グランパスに入団、2011年にプロデビューした。だが木崎氏によると、福岡大在学中に、独ブンデスリーガのウォルフスブルクから練習参加のオファーが届いていたという。このチームには、日本代表の長谷部誠選手が所属している。当時から海外で一定の評価を受けていたようだ。
五輪の2試合での「快走」ぶりは、試合を観戦していたイングランドやドイツ、イタリアなど欧州プロリーグの担当者の目に強烈に映ったはずだ。各国の有力チームからは、獲得に向けた動きが出始めたと伝えるメディアもある。木崎氏は、50メートルを5秒8で駆け抜ける永井選手が瞬間的に加速する能力は「世界レベル」と太鼓判を押す。例えばフランス代表MFのフランク・リベリー選手もスピードが強みで、「200メートル走なら五輪代表になれるのではないか、とまで言われています」(木崎氏)。それでも今の永井選手なら、リベリー選手と競走したら負けないかもしれないというのだ。
現在プレーする名古屋グランパスとの契約条件の詳細が分からないので、五輪終了後すぐに永井選手の「海外電撃移籍」が実現するかは微妙だ。それでも仮に欧州へ新天地を求めるとしたら、どのリーグが最もフィットするだろうか。木崎氏はイングランド・プレミアリーグを推す。五輪がロンドンで行われているため同リーグに所属するチームへのアピール度が高まることもあるが、フィジカル面で高い能力が求められるリーグで、「たてへのスピード」を武器に活躍するチャンスがあるというのだ。2012年1月から同リーグのボルトンでプレーした宮市亮選手も走力がセールスポイントで、得点も挙げている。
日本代表は1次リーグ残り1試合を消化した後、金メダルを目指して決勝トーナメントを戦う。勝ち進めば永井選手の活躍機会が増え、五輪後には「多額の移籍金を負担してでも獲得したい」とプレミアリーグのチームが名乗りを上げないとも限らない。マンチェスター・ユナイテッドに移籍した香川真司選手との日本人対決、あるいはチームメートとして強力な攻撃ラインの形成といった「夢」も膨らむ。