米国の老舗週刊誌「ニューズウィーク」が年内にも紙版の発行を停止し、オンライン版に完全移行するとの報道が流れた。同誌の親会社会長が決算発表の際に語った内容が、その根拠とされた。
だが日本のニューズウィーク側は「すぐに紙版を廃止することはあり得ない」と反論。会長の発言はメディアの潮流の一般論に過ぎないと、打ち消しに懸命だ。
日本版公式ツイッターでは「誤報です」
朝日新聞は2012年7月26日、「紙よさらば…米ニューズウィーク誌、ネット化へ」との見出しで米ブルームバーグの報道を引用した記事を掲載した。ニューズウィークの経営権を握るIAC社のバリー・ディラー会長が米国時間7月25日に行われた同社の決算報告の電話会見で、
「紙からオンラインへ移行されることになるだろう。すべての選択肢を検討し、9月にも計画を発表する」
と答えたという。ただし、移行時期や方法は不明だ。一方でニューズウィークは、今年も2200万ドル(約17億2000万円)の損失が見込まれていると指摘する。
ここまで読むと、紙版が消滅してオンライン版1本に姿を変えると経営トップが「既定路線」として認めたようにも映り、その詳細が9月に明らかにされそうな印象だ。
引用元となったブルームバーグの2012年7月25日付記事を見ると、冒頭で「ニューズウィークを所有するIACの会長は、同誌がゆくゆくはオンライン版に移行するだろう、と語った」となっており、「印刷媒体の週刊誌として79年間発行され、現在は赤字続きの同誌の終わりの始まりを示した」と続く。
米ウォールストリートジャーナル(WSJ)電子版の記事では、「IACはニューズウィークについて、オンライン版のみにすることを検討」と書かれている。WSJ電子版のブログ「オールシングスD」では、IAC会長が完全オンライン化を考えているかについて「その答えは『多分』だ」とトーンが低い。
日米それぞれの報道には濃淡があるが、「紙版廃止」「オンライン版へ完全移行」という刺激的な部分はツイッターなどで広まった。これに対してニューズウィーク側は火消しに走る。同誌日本版の公式アカウントでは7月26日、「Newsweekが9月に紙媒体を廃止し、ネット化するとの報道がありますが、誤報です」と全面的に否定。ディラー会長は同誌の方針を語ったわけではなく、日本版についても何の変更もないと断言した。
WSJ「いずれは移行、でも今は着手していない」
ニューズウィークは2010年、50年近くにわたって経営権を保有していた米ワシントンポスト紙が音響機器メーカー創業者のシドニー・ハーマン氏(故人)に売却。その金額が1ドルだったことで話題を集めた。同年11月にオンラインメディア「デイリービースト」と合併した。IACは、デイリービーストの運営会社だ。
米オンラインニュース「ハフィントンポスト」は7月25日、デイリービースト創業者で現在ニューズウィーク編集長を務めるティナ・ブラウン氏が、編集部員に回覧したとされるメモの内容を紹介。そこには「ディラー会長は、報道されたような『ニューズウィークは9月に(完全に)デジタル版となる』という話はしていない」と書かれていたという。IACの広報担当者も、「オンライン版のみの運営は、会長が単に『可能性』として検討しているだけで、(決算会見でのコメントは)メディア産業に起きている一般的な変化について述べたにすぎません」と話したそうだ。
先のWSJ「オールシングスD」は、ディラー会長の発言が「ちょっとした物議を呼んでいる」ため、話の全体像を紹介している。記者との質疑応答で会長は、「ニュースを扱う週刊誌の問題点は、その作り方にある……誰もが同じ問題に、長い間悩まされる」と指摘。続けて「変化は訪れるだろう」としたうえで、「何もかもがすっかり変わるわけではないが、印刷物からオンラインへの移行は実現するはずだ。我々はあらゆる選択肢を試しており、(今年の)9月か10月、いや来年にはプランを示せるかもしれない」と話したという。
これでは確かに、ニューズウィークの将来像について言及したか明確でなく、業界全般を指した話とも考えられる。「オールシングスD」の記者は、「ディラー会長は、いずれはニューズウィークのオンライン化を、と考えてはいるものの、現時点では何も手をつけていない」と見ているようだ。
朝日の報道は「勇み足」の可能性がいまのところ強い。