ロンドン五輪の開幕が間近に迫っている。既にサッカーでは予選が始まり、開会式のリハーサルも行われた。
今回の五輪では、ツイッターやフェイスブックなどSNSの利用法が議論されている。国際オリンピック委員会(IOC)は、選手がSNSを使う際に一部制限を設ける方針を出した。広告目的での使用や、「情報漏れ」により他の選手の競技に影響が出るのを防ぐのが目的だが、選手の中には反発する向きもある。
会場内で撮影した動画の投稿は全面禁止
IOCは、五輪出場選手のSNS使用について「積極的に推奨、支援する」を基本路線としている。だが一方で、無制限の利用を認めているわけではない。IOCの通達を読むと、ブログやツイッターなどテキストでのやり取りや、写真や動画の投稿に関して「禁止条項」が定められていた。
例えばツイッターのつぶやきは、本人が「一人称」で語った日記形式の文章に限られ、競技や他の選手について批評したり、五輪関係者や組織に関連する秘匿情報をつづったりしてはならないとする。写真については、五輪会場内で個人的に撮影したものであれば投稿可能だが、広告目的は禁止だ。一緒に写真に収まった人からは、掲載する際に許可を得る必要がある。一方動画の場合、選手村を含む会場内で撮ったいかなる映像もインターネット上での公開は許されない。
ほかにも、いわゆる「五輪マーク」を勝手に使ってはいけないという。さらに、特定のブランドや商品をSNS上で宣伝する行為は厳禁となっている。
日本選手団の中には、SNSを駆使して五輪開幕前の様子をファンに向けて発信しているアスリートがいる。例えば競泳男子平泳ぎの北島康介選手は、選手村の自室でテレビを見ている様子を写真付きでツイッターに投稿。サッカー男子五輪代表の清武弘嗣選手は、日本時間2012年7月26日夜に行われるスペイン戦を前に、「絶対勝つ」と意気込みをつづった。
選手たちは工夫してSNSを楽しんでいる一方、IOCの規制内容に首をかしげる意見もある。陸上競技の米国代表選手のひとりは米ブログメディアの取材に、IOCのルール設定が「馬鹿げている」とコメント。「せっかく五輪の露出機会を増やせるSNSを、なぜ制限するのか」と理解できない様子で、選手の責任においてSNSの使用を任せるべきと主張する。
ツイッター上の「差別発言」で五輪代表外れる
五輪では、テレビ放映権やスポンサーシップといった権利関係が世界レベルで絡み合い、莫大な金額が動く。個人が競技の様子をむやみに動画で撮影、ネットに投稿すると放送メディアとぶつかることになる。もしも有名選手が五輪スポンサー以外の商品の写真を撮影して、好印象を与える感想を書き込んだりすれば、広告主にとっては一大事だ。IOCが神経をとがらせるのも、無理はないのかもしれない。
一方で、IOC自身が決めたルールの範囲内であれば、SNSの活用を推進したいとの姿勢は確かなようだ。その取り組みとして、参加選手のツイッターやフェイスブックのアカウントを集めた「オリンピック・アスリーツ・ハブ」という特設サイトを立ち上げた。表示されている人気選手の名前をクリックすると、本人のSNS上の投稿がひと目で閲覧できる。サイトに登録されている選手を検索することも可能だ。7月26日現在でフォロワー数トップは、男子バスケットボール米代表で世界的にも人気のレブロン・ジェームス選手。フォロワー数は1740万だ。ほかにも女子テニスのロシア代表、マリア・シャラポワ選手や、陸上男子100メートルの世界記録保持者でジャマイカ代表のウサイン・ボルト選手らが名を連ねる。
しかし、IOCのSNSに対する懸念は開会式を前にして早くも現実となった。陸上女子三段跳びに出場を予定していたギリシャ代表の選手が、ツイッターでアフリカ系移民に対して差別的な内容を書きこんだとして、ギリシャ五輪委員会が7月25日にこの選手を代表から外したのだ。
観客に対する使用制限は、もっと難しいだろう。27日の開会式の内容は「極秘」で、リハーサルが行われた際には見学者が、中身の情報や写真をSNSに投稿しないよう求められたとロイター通信は伝えている。しかし一部のSNSには、要望に背いてリハーサルの感想や写真を投稿した人がいるようだ。
本格的な「SNS五輪」としては初めてとなる今大会で、その「功罪」が明らかになるかもしれない。