大津市をはじめとして全国でいじめ問題が注目されている。どれも個別問題として深刻な事情があると思う。その対応ぶりをみていると、とても気になることがある。
会見などで現場責任者である校長がでてくるのは当然として、それと同席するのが「教育長」という人だ。市長や「教育委員長」がでてくることはまずない。そもそも「教育長」と「教育委員長」の区別やどちらが上席ポストなのかを知る人は、そう多くはないのではないか。
市の教育長の報酬は、教育委員長の約8倍
教育行政の仕組みは、他の行政と大きく異なっている。地方教育行政において、地方自治体の役割は少なく、ほとんどは都道府県と市町村に置かれる教育委員会が主体になっている。教育委員会は首長から独立して、5人程度で構成されていることが多い。
建前としては、教育委員会は、教育行政における重要事項や基本方針を決定し、それに基づいて教育長が具体の事務を執行する。しかし、教育委員会の実態は、役所の審議会と似ており、教育長をトップとする事務局が実質的なことを決めている。教育委員長のほうが、教育長より上位ポストであるが、実態は逆だ。
ちなみに、文部科学省の「教育行政調査」によると、市の教育長の報酬は、教育委員長の約8倍、教育委員の約10倍であり、町村の教育長の報酬は、教育委員長の約15倍、教育委員の約20倍。いかに教育長の方が実権者であるかがわかる。
これで、いじめ問題では、なぜ市長でも教育委員長でもなく教育長がでてくるのかがわかるだろう。
教育長が教育行政の実権を握っていても、うまくいじめ問題を解決してくれればいいのだが、問題は、市町村の教育長の7割が教職経験者で、教員寄りということだ。このため、いじめ問題でいつもささやかれる学校の隠蔽体質にはなかなかメスが入らない。
いじめ問題解決できないなら首長が責任をとる
今回、大津市の事件では、学校や教育委員会の自浄作用では無理だったので、滋賀県警が捜査に着手し刑事告発も行われ、いじめの実態や学校・教育委員会の隠蔽体質が明るみに出てきた。
こうして明らかになってきたのは、学校と教育委員会がもたれ合い、教師の共同体の維持を目的として隠蔽体質にいたり、いじめ問題に対して誰も責任をもっていないことだ。そのしわ寄せは、いじめを受けた生徒の自殺という形になっている。
今の民主党政権は、日教組など教職員労組からの支持を得ている。民主党幹事長の輿石東氏は、教員、山梨県教職員組合出身だ。そのためか、いじめ問題への対処が生ぬるい。
せめて、首長がいじめ問題の解決を選挙公約として掲げ、それを教育委員会に指示し、首長と教育委員会が協力していじめ問題に対処できるようにすべきだろう。もしいじめ問題を解決できないなら首長が責任をとる(といっても生徒が自殺してしまった後では、どんな責任をとってもせんないが)。
残念ながら、今の制度ではこうした当たり前のことを行う地方自治体はほとんどない。今(2012)年になってようやく、大阪府と大阪市では、首長主導で教育目標を設定するなどの条例が作られたが、それら以外にはないようだ。
++ 高橋洋一プロフィール
高橋洋一(たかはし よういち) 元内閣参事官、現「政策工房」会長
1955年生まれ。80年に大蔵省に入省、2005年から総務大臣補佐官、06年からは内閣参事官(総理補佐官補)も務めた。07年、いわゆる「埋蔵金」を指摘し注目された。08年に退官。10年から嘉悦大学教授。著書に「財投改革の経済学」(東洋経済新報社)、「さらば財務省!」(講談社)など。