ヤンキースが払ったのは2億円弱? イチロー「格安」の理由は条件丸のみ

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   米大リーグ、イチロー選手がニューヨーク・ヤンキース移籍を実現するため、契約内容を大幅に譲歩した――。ヤンキースのゼネラルマネジャー(GM)が、こんな舞台裏を明かした。

   金銭面でヤンキースの負担は、今季の年俸の一部にとどまる。守備位置や打順など起用法でも球団側に「一任」の形となったようだ。

守備位置の変更や下位の打順での起用などすべて受け入れ

ヤンキースの公式サイトで紹介されるイチロー選手
ヤンキースの公式サイトで紹介されるイチロー選手

   2007年7月、イチロー選手はシアトル・マリナーズと5年間、総額9000万ドル(当時の為替レートで約110億円)で契約を更新した。報道では、新規契約料として500万ドルが支払われ、1年当たりの年俸1700万ドルで合意したと伝えられていた。

   今回のトレードでは、ヤンキースからマイナー所属の若手2選手がマリナーズに移った。加えてマリナーズの公式ウェブサイトには「金銭も含まれる」とある。金額は明らかにされていないが、米CBSスポーツのジョン・ヘイマン記者によると、ヤンキースが支払った額は225万ドル(約1億7800万円)で、これがイチロー選手の今季の年俸の一部に当てられるという。高額年俸のスター選手を次々に獲得できる資金力をもつヤンキースにとって、イチロー選手を「2億円程度」で手に入れたのは「超お買い得」と感じたかもしれない。

   マリナーズとのこれまでの契約では、他球団への放出を拒める「ノートレード条項」を結んでいたが、自ら条項を破棄して移籍を望んだ。だがヤンキース側が出した条件は「好待遇」とは言い難い。ヤンキースのブライアン・キャッシュマンGMは米スポーツ専門メディアのESPNに、「イチローは我々が出した条件をすべて受け入れた。彼は多くの犠牲を払うように求められ、同意したのだ」とコメントした。この「犠牲」についてESPNは、守備位置の変更や下位の打順での起用だと示唆。また左打ちのため、左投手が先発すれば控えに回る可能性もあるのではないか、と推測した。

   キャッシュマンGMは米国時間2012年7月24日、ENPNのラジオ番組で、「イチロー獲得の優先順位は、必ずしも高くなかった」と明かした。補強ポイントだったのは、レギュラー選手がケガのため今季絶望となった左翼だったが、イチローは右翼手。しかもマリナーズの「顔」であるプレーヤーだけに、交渉が始まってからも、「合意にこぎつけられるか、予測できなかった」と振り返る。

移籍後2試合の打順は8番、左翼コンバートも

   7月第2週に行われたオールスター期間中、イチロー選手がマリナーズ側に「決断」を伝えてから、ヤンキースのユニホームに袖を通すまでわずか2週間。GMですら交渉妥結の道筋が見えなかった状態から短期間で一気にトレードがまとまった背景には、「格安」「条件丸のみ」でも構わないというイチロー選手の移籍への強い意志が働いたのかもしれない。

   だがヤンキースでの地位は、決して安泰ではない。今季初めはマリナーズでクリーンアップを務めたほどだが、移籍後2試合の打順は8番と「条件通り」の下位だ。守備位置こそ本職の右翼だったが、正右翼手が近日中に戦線に戻る予定で、そうなればキャッシュマンGMが描くように左翼へコンバートされるとみられる。

   何もかも新しい環境のうえ、「全国区」のヤンキースでのプレーはマリナーズと比較して注目度が段違いだ。しくじれば、口さがないニューヨークのメディアの容赦ない攻撃にさらされる。従来とは別世界ともいえる中でイチロー選手は巻き返しを図り、残り60試合余りで好結果を出さなければならない。チームがプレーオフに進出すれば、短期決戦での活躍を当然期待されるだろう。

不要と判断すれば功労者でも「切り捨て」

   ヤンキースは2009年のシーズン終了後、4年契約の最終年を迎えていた松井秀喜選手(現タンパベイ・レイズ)と契約を更新しなかった。この年、松井選手は前年の故障から復帰して28本塁打を放ち、ワールドシリーズでは最優秀選手(MVP)に輝いた。それでも球団は、別の戦力を優先して松井選手を引き止めなかった。常勝軍団を維持するため、不要と判断すれば功労者でも「切り捨て」をためらわない冷徹な姿勢がうかがえる。今季終了後にフリーエージェントとなるイチロー選手は、打率が低迷したままシーズンを終えれば再契約が難しいかもしれない。

   とは言え、「もしトレード要員がイチローでなく、単に『打率2割6分1厘の外野手』との条件だったらヤンキースは興味を示さなかっただろう」(ESPN電子版)。キャッシュマンGMが、イチロー選手の守備力や、機動力をはじめ高い運動能力は衰えていないと評価しているのは確かだ。実際に盗塁数は例年より少ないものの、ヤンキースのレギュラー陣と比べると最多。移籍後の2試合では「レーザービーム」と呼ばれる強肩も披露した。ワールドシリーズを制するための「切り札」として獲得した意味合いは強そうだ。

   「刺激を求めたい」と自ら飛び込んだ名門チームで期待通りの働きを見せれば、「イチローはレンタル移籍」(米ニューヨークタイムズ)「名ばかりの大型トレード」(米ニューヨークポスト)などとやゆするメディアを黙らせ、来季以降の契約を勝ち取るだろう。

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