中国の経済成長率が、とうとう8%を割り込んだ。中国国家統計局は2012年4~6月期の国内総生産(GDP)が物価変動の影響を除いた実質ベースで前年同期に比べて7.6%増えたというが、リーマン・ショックがあった08年以来、約3年ぶりに8%を下回る水準に落ち込んだ。
もちろん、日米欧の経済成長率とは比べものにならないほど高い成長率ではあるが、04年度以降に年率10%超の、飛びぬけて高い経済成長率を維持してきた中国の「勢い」は、急速に萎んでいる。
遅きに失した「利下げ」のタイミング
中国政府はこれまで、8%の大台だけは「死守」しようとしてきた。そもそも、12年の目標成長率の「7.5%」も、当初は政府が一定の余裕をもって設定した水準だったのが、そんな余裕などなくなった。
著書に「チャイナクライシスへの警鐘 2012年中国経済は減速する」がある、富士通総研の柯隆・主席研究員は、「2010年までの中国経済は北京五輪や上海万博の開催に伴う多くの公共事業が経済を下支えしてきたイベントがけん引してきました。いわば、東京五輪後の日本やソウル五輪後の韓国のようなもので、一定程度の経済減速は予測できました。それにもかかわらず、景気浮揚策をとらなかったことが『7.6%』という成長率の原因です」と説明する。
では、なぜ景気浮揚策をとらなかったのだろう――。要因の一つは都市部の不動産バブルだ。これが弾ける前に手を打ちたかったが、「タイミングを逸した」。加えて、欧州の債務危機が深刻化し、輸出の減速や中国内の住宅市場の不振で、国内外の需要が冷え込んだ。
6月は輸出入の受注状況を示す指数がいずれも前月を下回って50を割り込んだほか、国内での受注状況を示す指数も2か月連続で50を割った。
中国人民銀行(中央銀行)は6月8日、あわてて金融機関の貸出・預金金利を1年物でそれぞれ0.25%引き下げた。利下げもまた、リーマン・ショック後の08年12月以来、3年半ぶりだったが、前出の柯隆氏は「遅すぎました。しかも下げ幅が小さすぎて、ほとんど効果がなかった」と指摘する。
戦後日本の経済復興と同じ歩みたどる
中国では大学生の卒業は7月。「昨年の就職難に加えて今年も就職できない学生がいるので、経済成長率が8%を割り込むと失業者が増え、社会不安が深刻化しかねない」(富士通総研の柯氏)という。それもあって、中国政府は8%台の維持に固執する。
景気の減速を受けて、中国人民銀行(中央銀行)は7月、2か月連続で利下げに踏み切った。金融緩和の効果がある預金準備率の引き下げについても、11年12月から3回も実施した。
たしかに2011年に20%も増えた輸出は、12年1~6月は9.2%増と鈍った。最大の貿易相手である欧州連合(EU)の債務危機が足を引っ張ったのも事実だろう。輸出の鈍化が中国内の生産活動に波及。中国投資家のマインドがネガティブになったこともマイナスだ。
しかし、柯隆氏は「(景気減速をとめるには)内需拡大しかない」と言い切る。中国経済は、戦後日本の経済復興と似ている。日本も米ドルとの固定レートを武器に、輸出を拡大することで、年率10%もの高度経済成長を遂げてきた。それが変動相場になったことや、国民全体が豊かになったことで経済成長は鈍化した。
中国のGDPに占める消費の割合は34%しかない。日本は約60%、インドでも約50%あり、まだ伸びる余地がある。「中国も2005年6月以降、人民元の切り上げに踏み切りました。今後、ますます人件費も上がります。しかし、それは同時に個人消費の伸びが期待できます。今後の経済成長は、輸出から消費への転換がカギです」と、柯隆氏は話す。