東京電力の広瀬直己社長と松本純一原子力・立地本部長代理は2012年7月19日、東京・有楽町の日本外国特派員協会で会見した。原発事故について陳謝した上で、「近い将来、東電が良い方向に変わっていると信じてもらえると確信している」などと述べたが、福島市民が地震後の使用済み燃料プールの状況を心配している様子や、脱原発デモについて「驚いた」と述べるなど、消費者との温度差を感じさせる発言も相次いだ。
「我々の解析なり認識が、皆さんに広く伝わっていなかった」と反省
広瀬社長は会見冒頭、10分程度英語で流ちょうにスピーチ。その中で紹介されたエピソードに、記者から疑問の声があがった。広瀬氏は最近、福島市を訪問した時の様子を
「ビルの8階で地元住民との集会に臨んだ時、地震が起きた。マグニチュード5~6程度の大して大きくない地震だったが、揺れを感じた。その揺れのすぐ後、地元の方から『4号機の使用済み燃料プールは大丈夫か』とたずねられ、びっくりした。地元の方がこんなに真剣に心配しているのかと思った」
と紹介したのだが、記者からは「私は社長が『びっくりした』ことに『びっくりした』」と違和感を表明する声もあがった。広瀬社長は
「(使用済み燃料プールは)前回の3.11程度の地震が来ても耐えられることが解析されている。従って、私は、あの程度の地震では全く問題ないと思っていたので、『あの程度の地震でも驚かれたことに驚いた』。これには反省点があって、我々の解析なり認識が、皆さんに広く伝わっていなかったことがあった」
と釈明した。
脱原発デモには「結構たくさんの方が集まっていて、驚いている」
また、7月16日に東京・代々木公園で行われた集会をはじめとする脱原発の動きについては、
「正直に言って、たくさんの方が月曜日に公園に集まったこと、毎週金曜日に、結構たくさんの方が東電周辺に集まっていることに驚いている」
と述べた。
「質問に答えていない」と非難される一幕もあった。国会事故調の調査報告書で、原発事故は「政府、規制当局と東京電力とのcollusion(共謀・結託)と、ガバナンスの欠如の結果」だと指摘されている。広瀬社長は「これに同意するか」と問われたのだが、
「我々としては(民間事故調や政府事故調など)いくつかの報告書を突き合わせて、違いがあれば、さらに調査しなければならない」
と述べるにとどまったため、さらに答弁を求められたが、
「それはどういう事実に基づいてcollusionと認定されているのか、いささか分からないところ。したがって、しっかり読み込んで、そうした事実が我々が理解している事実と違っていれば、しっかり調査したい」
と煮え切らない態度だった。
値上げ幅圧縮は「年間で800億円近いインパクト」
東電が申請していた家庭用電気料金の値上げ幅平均10.28%を、政府が8.47%程度に圧縮することを決めたことについては、
「年間で800億円近いインパクトがある」
「非常に大きな年間での収入減になる。これをなんとかカバーアップ(埋め合わせ)しないといけない」
と語った。さらに、当初7月に予定していた値上げが9月にずれ込んだことについても、
「値上げが1か月遅れると200億円の収入減になる」
と述べた。