上野動物園(東京都台東区)のジャイアントパンダ「シンシン」の赤ちゃんが肺炎で死んだ。同動物園でパンダが生まれるのは24年ぶりで、順調な成長が期待されていただけに、動物園のスタッフは終始がっくりと肩を落とした様子で記者会見に臨んだ。
土居利光園長は、涙で言葉が出なくなる場面もあった。だが、報道陣からは「(死んでから発表までに)タイムラグがある」「(赤ちゃんを保育器から)母親に戻したという判断は正しかったと思っているのか」といった動物園側を追及するような質問も飛び、記者側に違和感を覚えた視聴者もいるようだ。
初産では1週間で6~7割が死んでしまう
赤ちゃんは2012年7月5日に生まれ、誕生7日目にあたる7月11日朝に死んでいることが確認された。動物園側の説明によると、赤ちゃんは一時期、保育器の中で育てられていたが、健康状態が回復したため、7月10日午後にはシンシンのもとに戻した。翌7月11日早朝の6時45分には赤ちゃんの鳴き声が確認できたが、7時30分には、シンシンのおなかの上で、心肺停止状態で仰向けになっているのが発見され、心臓マッサージで蘇生を試みたものの、8時30分に死んでいるのが確認された。10時半から正午前にかけて解剖したところ、母乳を吸う際に誤って気管につまらせ、呼吸不全で肺炎を起こしたのが原因だった。
パンダの赤ちゃんは非常に小さいため、生育が難しく、特に今回の初産の場合、生後1週間で6~7割が死んでしまうという。
14時半から約40分間にわたって行われた会見では、6時45分から7時30分までの様子に質問が集中した。この45分間に、赤ちゃんが母乳を詰まらせたとみられているからだ。具体的には、
「小さな赤ちゃんへの心臓マッサージは、どうやるのか」
といった細かい質問もあった。テレビモニターを24時間体制で監視していたが、この点について、
「どれくらいのペースで見るもんなんですか?」
「そういうマニュアルがある訳じゃないんですか?『何分に何回見ないといけない』とか」
と、詰問調ともとれる質問もあった。
「死んでしまったが、名前を付ける予定はあるか」
それ以外にも、「ニコニコ動画」などを見ていた視聴者から「ひどい」という声があがった質問も、いくつかあった。ひとつが、1985年に初めて上野動物園で生まれたパンダ「チュチュ」を引き合いに出した質問だ。
「チュチュの場合、43時間で死んでしまって、飼育員の方が名前を付けたと思うが、今回も、死んでしまったが名前を付ける予定はあるか」
この質問に対しては、パンダの飼育責任者の福田豊副園長が「今のところは今日の出来事ですので、考えていない」と応じた。
さらに「母親のシンシンの展示の予定はどうなるか」「その後のシンシンの様子は?」といった、母親についての質問が続くと、土居園長は涙を見せ、終始声を詰まらせながら質問に答えた。
それ以外にも、赤ちゃんが死んでから発表されるまでに 「かなりタイムラグがあったのではないか」と動物園に対する批判も出た。これに対しては、土居園長が
「特定の人にしか知らせていなくて、死亡の原因もちゃんと確定しないといけないということでスタッフを集めたしていたので、なかなか余裕がなかったということもある。変な情報が流れても困るので、そういった点にも気を遣った」
と釈明した。動物園側がやや強い調子で反論したのが、赤ちゃんを保育器に戻すという判断についてだ。記者は「残念に思われている中、こういう質問は恐縮だが、母親に戻したという判断は正しかったと思っているのか」と聞いたが、福田副園長は
「母親に戻したのは正しかったと思っている。ひとつは、昨日の夕方状況が良好だったということと、小さくて弱い動物なので、人間がいくら保育器の中で面倒を見るといっても、いくら一生懸命やっても、母親のようにはできない」
と言い切った。
「死んだと分かったとき、その瞬間どういう気持ちだったか」
また、「短い間だったが、どういう赤ちゃんだったか、思い出の言葉を一言いただきたい。初めて死んだと分かったとき、その瞬間どういう気持ちだったか」という質問には、土居園長が、
「短い時間でしたけれど、まぁ、こちらの、正直言うと、携帯電話がなるのが、ずっと…」
と言葉が続かなくなり、代わりに福田豊副園長が
「昨日の状態がすごく良かったし、シンシンが子どもを本当に大事そうに抱えていたので本当に驚いた」
と答える一幕もあった。