滋賀県大津市の中学校で2011年10月、男子生徒が自殺した「事件」は、同じ学校に通う生徒たちの証言から陰惨な犯罪の実態が浮き彫りになってきている。
教育評論家や、息子が自殺した父親はいずれも「いじめというより、これは犯罪だ」と厳しく断じている。
いじめを理由とした出席停止わずか6件
「一方的に殴られていた」「火のついたタバコをつけられた」「金を脅し取られた」――。自殺した男子生徒の同級生は、学校側が実施したアンケートにいじめの様子を具体的に回答していた。最近では在校生がテレビの取材に対して、加害者による暴力についてコメントし、続々と詳細が明らかになってきた。
「これは犯罪です」。NPO法人「全国いじめ被害者の会」代表の大澤秀明氏は、J-CASTニュースの取材にこう断言した。大澤氏は1996年、「いじめ」が原因で息子が自殺に追い込まれるという悲劇に見舞われている。遺書には、同級生に殴られ続け、現金を要求された事実が記されていたという。これにより加害者の生徒2人は保護観察処分となった。
大澤氏は2012年7月6日に大津市を訪れて、自殺した生徒の父親と対面した。「地元警察から被害届の受理を3回も断られたことに、落ち込んだ様子でした」と話す。そこで滋賀県警に告訴状を持参するように助言したそうだ。
大津市のケースでは、加害者とされる同級生が「遊びの範囲内だった」と主張。学校側も「仲良しグループだと思っていた」と話したという。だが他の生徒からは、担任に「いじめ」の様子を報告したのに適切な対応をしなかったとの証言も出た。そもそも一方的に殴りつけるのが「遊びの範囲内」とは思えない。
大澤氏によると、かつては教育の場で「社会的人間の形成」が重視され、いじめが起きても教師が加害者の生徒を叱り、二度と繰り返さないような措置を施して「根元」を断ち切っていた。だが時代とともに「善悪」を教える風潮が薄まり、加害者への措置も講じられなくなったと指摘する。学校教育法では、教育上必要があれば加害者に対して懲戒(11条)や出席停止(35条)を命じられると定める。ところが文部科学省の「児童生徒の問題行動等生徒指導上の諸問題に関する調査」(2011年8月4日付)を見ると、2010年度に全国の小中学校で出席停止が下された74件中、いじめを理由にしたのはわずか6件。最も多かったのが「対教師暴力」の21件だった。
文科省は1995年、「いじめの定義」として「自分より弱い者に対して一方的に、身体的・心理的な攻撃を継続的に加え、相手が深刻な苦痛を感じているもの」とした。これを2006年、「当該児童生徒が、一定の人間関係のある者から、心理的、物理的な攻撃を受けたことにより、精神的な苦痛を感じているもの」と改めた。暴行や恐喝といった犯罪行為が「『いじめ』という言葉にすり替えられ、しかも定義があいまいになっている」と大澤氏。深刻な犯罪の意味合いがぼかされて、「ふざけ合い」「単なるケンカ」として処理されうる流れになってしまっていると憤る。
教師が隠ぺいに加担したら処罰する条例を
大澤氏は全国各地でいじめに悩む親子の相談を受けている。自身のつらい体験について、「息子がいじめられていたのを見ていた同級生が担任に報告したにもかかわらず、現場に行かずに放置していたのです」と振り返る。こうなれば、いじめの行為はますますエスカレートしがちだ。「いじめの実態を知ろうとしない。そうしておけば後から『学校側は把握していなかった』と言えるからです」と続け、「これは文科省の方針のせい」と怒りを隠さない。大津市の場合も、学校側は「見て見ぬふりをしていた」と生徒から声が上がっている。市教育委員会はいじめがあったことを認める一方で、自殺との因果関係は「判断できない」としている。
教育評論家の森口朗氏に聞くと、大澤氏と同様に今回の加害者側の行為を「校内犯罪」と断定する。一方で最近は未成年でも、加害者が罪に問われる事例が「ようやく出てきました」と話す。
本来であれば、悪質な「いじめ」が発覚したら被害者側と学校が連携して警察に被害届を出すのが望ましいと森口氏。そのうえで、実態を明らかにするために証拠を固めることが重要だという。複数の証拠に基づいて告発すれば、警察も動かざるをえなくなるからだ。
だが大津市のケースでは、学校側が協力的とはいえない。その場合に被害者側は、マスコミに訴えかけるなど別の方策をとる必要がある。さらに、「都道府県レベルで『いじめ防止条例』のようなものを制定し、教師がいじめの実態の隠ぺいに加担したら処罰する内容を盛り込んではどうでしょうか」とも提案する。学校側に腰を上げさせるためにも、ある程度強制的に「校内犯罪撲滅」への手段が必要というわけだ。