中国で自動車リサイクルへの関心が高まり、この分野で技術力を持つ日本企業の呼び込見込みが盛んだ。確かに、環境保護や使用済自動車の再資源化という面が注目されたことはあるが、政府高官系ファンドや不動産業などの中国協大資本が新たな投資先として注目している側面が否定できない。
10年、20年先を見て自動車リサイクルの関わる権利を獲得、「建設した工場は当面寝かせてもよい」などの条件でパートナー探しを行う中国巨大資本もある、というから驚きだ。
5年程度で廃車発生量は年間500万台以上に
中華人民共和国商務部、重慶市人民政府、日中経済協会、日中自動車交流協会が主催した「日中自動車及び部品リサイクル(重慶)協力フォーラム」が2012年5月18日、中国・重慶市で開かれた。自動車に関連した経済協力というと、生産効率化や先端自動車の研究・開発が主要テーマではと思われるが、今回、自動車リサイクルがテーマになったのは中国側からの強い要望によるものという。
中国では自動車販売の増加、保有台数拡大とともに使用済車(ELV)発生量も増えている。数年前まで40万台程度だったものが、2010年には100万台を突破、今後5年程度で廃車発生量は年間500万台以上になると見られるからだ。膨らむELVからは鉄、非鉄、樹脂類さらには希少金属と多様な資源が回収できる。修理用に利用する中古部品やリビルト部品を取り出して、輸出産業として育てることも可能だ。
自動車リサイクルを重要戦略産業のひとつとして位置付け
このため中国は、第12時5カ年計画(2011~2015年)で自動車リサイクル産業及び自動車部品リビルド産業を重要戦略産業のひとつとして位置付け、育成を目指している。今回のフォーラムもその関連で開かれたものだ。
フォーラムとともに、日本側参加企業とビジネスマッチングを目的にした意見交換会も開催、日本側からは大手商社、自動車メーカー、建機メーカーなどが出席した。
フォーラムでは日本の自動車リサイクル業者として江蘇省張家港市に進出しているCRS埼玉の代表が、事業の概要を説明した。
張家港市は長江に面した産業都市で、中国政府が唯一、海外からのELV輸入を保税区に許可している。ELV処理のモデル事業を同地で進めるために中国政府が輸入を許可した。
投資したのは香港のホテルオーナー、地元の不動産業者
CRS埼玉は国内の同業2社とともに自動車リサイクル事業の投資会社を作り、張家港市に拠点を建設した。投資会社のパートナーは政府高官系のファンドという。同社の拠点建設先にはすでに大型のシュレッダー工場が建設されている。
工場建設に投資したのは香港のホテルオーナー、地元の不動産業者といった顔ぶれだ。政府による不動産投資の過熱抑制で抑え込まれた資金が新分野の環境分野、とりわけ「カネ」を生む可能性が高い自動車リサイクルに向かった、という形だ。
同様なプロジェクトは中国各地で動いており、3月には新エネルギー・産業総合技術開発機構が、日本企業に委託し、解体作業の効率化を図る作業ラインの開発、フロンなどの有害物質処理モデルの検討、さらに部品リサイクルの経済性などの実証事業を進める、と発表している。
日本企業にとっても、自動車リサイクルは中国ビジネスの新分野といえるのだが、中国の現地パートナーは巨大資本。すでに進出した企業からは「そのスケールについていくのは厳しい」といったぼやきも聞こえる。