政府は2012年6月8日、喫煙率低減の数値目標を盛り込んだ「次期がん対策推進基本計画」を決定した。2010年の調査で19.5%の成人喫煙率を2022年度までに4割近く引き下げ、12%を目指すもので、政府が数値目標を掲げるのは初めて。
たばこの健康被害が広く知られるなか、なぜ今まで目標がなかったのか――。関連業界などの反発も根強く、禁煙をめぐる論争はなお尾を引きそうだ。
日本人男性は独仏並みにタバコ好き
2005年の「たばこの規制に関する世界保健機関枠組条約」発効に伴い、日本でも、たばこ製品への注意書きの表示強化、広告規制の強化、禁煙治療の保険適用などの対策が行われた。2010年10月には、たばこの消費を抑制することを名分に、たばこ税が1本あたり3.5円引き上げられた。その結果、成人の喫煙率は、24.1%(2007年)から19.5%(2010年)へと減少した。
だが、特に男性の喫煙率は32.2%と、独仏と並び、英国22%、オーストラリア16%などを大きく上回り、依然として高い。
最初の基本計画が策定された2007年当時、「喫煙率半減」などが議論されたが、結局、導入が見送られた。それは、政府内でも強い反対があったからだ。
一つが財務省。たばこ税は年間2兆円もの税収を生むだけに、禁煙が急速に進むとただでさえ苦しい財政が一段とひっ迫する。同省が所管し、多くの天下りを送りこんできた日本たばこ産業(JT)の経営も揺らぎかねない。
もうひとつ、農水省も、葉タバコ農家保護の面から、禁煙に消極的だった。もちろん、嗜好品であるたばこに、公権力が過剰に介入することへの危惧、文化としてのたばこの意義といった視点から禁煙の強制に対して慎重論も根強い。
そうした批判、慎重論を押し切って数値目標を導入するには「根拠」が必要だった。喫煙者の中で禁煙を希望している割合が2007年の28.9%から2010年には37.6%に増加。この「たばこをやめたい」人が全員禁煙をすると、喫煙率は12.2%になる――これが今回の目標値の算定根拠というわけだ。
JTは「慎重姿勢」
曲がりなりにも目標値を盛り込んだことに、日本医学会などは「がんの年間死亡者は約35万人で4分の1は喫煙によるものとされる」などとして、基本計画を「高く評価する」と全面的に支持。「目標は低すぎるし、遅すぎる」と手厳しいNPO法人日本禁煙学会も「自民党時代は族議員がいてなかなかできなかった。目標はないよりはまし。この点は政権交代した意味がある」(作田学理事長=6月8日「毎日新聞」電子版)と評価している。
一方、JTは「がん等、喫煙と関連があるとされる諸疾病の発生には、住環境(大気汚染等)、食生活、運動量、ストレス等、様々な要因が影響しており、今後更なる研究が必要であるものの、喫煙は特定の疾病のリスクファクターであると考えています」(3月9日「「がん対策推進基本計画(変更案)」に対する意見」)などと「たばことがん」の因果関係に慎重姿勢を強調している。
基本計画が「喫煙に関する個々人の選択への介入や厳格な分煙措置の規制等につながることがないよう強く求めてまいります」(6月8日「がん対策推進基本計画(変更案)の閣議決定について」)と徹底抗戦を宣言している。
数値目標は決まったが、禁煙「強制」の是非論争、簡単に収まりそうもない。