東京大学大学院の加藤泰浩教授(地球資源学)らの研究グループが、LED照明や液晶テレビなどの部品に使われる「レアアース」(希少土)を豊富に含む泥を、日本の最東端の南鳥島(東京都小笠原村)周辺の海底で発見した。加藤教授らが2012年6月28日、資源地質学会で発表した。
日本の排他的経済水域(EEZ)で大規模なレアアースの鉱床が明らかになったのは初めてで、EEZ内であれば自国の資源として開発できるため、早くも大きな期待が寄せられている。
日本の年間消費量の220倍以上が埋もれている
加藤教授らは、国際共同研究などで採取された南鳥島周辺のEEZ内の海底堆積物のボーリング試料を分析した結果、南鳥島の南西約300キロメートル、水深約5600メートルの海底の泥に最大約1700ppm、平均約1100ppmの高濃度でレアアースが含まれることを突きとめた。
「レアアースを含む泥の厚さは、現在確認できるものとして10メートルほど」(加藤研究室)あり、濃度や層の厚みなどから推定されるレアアースの埋蔵量は約680万トンで、日本が1年間に消費するレアアース(約3万トン)の「約220年分が見込める」という。
また、南鳥島の180キロメートル北にも1000ppmを超える濃度の泥を見つけている。
加藤研究室は、レアアースはハイブリッド車のモーターに使われる「ジスプロシウム」や、液晶テレビに使われる「テルビウム」などに「とくに富んでいますし、他のレアアースも含まれています」と話している。
とはいえ、課題もある。レアアースが見つかったのは水深5600メートルの海底だ。これまでの実績ではドイツの鉱山会社が水深2000メートルから採掘した例があるというが、「この採掘も「紅海での泥のような形状をした硫化物泥で、レアアース泥ではない」と話す。
ただ、加藤研究室と共同開発してきた三井海洋開発と三井物産でも、技術開発は十分可能とみている、という。
「日本が価格の調整弁を握ることができる」かもしれない
「レアアース」の生産量は中国が97%を占めているとされる。日本はその最大の輸入国だ。半導体やバッテリーの電極など、さまざまな電子部品に使用され、ハイテク素材に少量添加するだけで性能が飛躍的に向上するだけに、レアアースは欠かせない。
2010年、中国が環境保護などを理由に輸出量を前年より40%減少させたことや、尖閣諸島沖で起きた中国漁船の衝突事件のあと、輸入が滞ったことなどから、日本企業に強い懸念が広がったことは記憶に新しい。
このため、日本では中国以外のレアアースの調達先を探す動きが進んでいて、11年3月にはオーストラリアで大規模な鉱山の採掘権を獲得したほか、12年5月にはカザフスタンとも協力関係を強化することで合意している。
この鉱床からレアアースが採掘できるようになれば、日本は中国からの輸入に頼る必要はなくなるのだろうか――。
「現在のところ、すべてを自給する必要はないと考えています。日本が年間消費量の10%でも自給できれば、中国が値段を上げたときは『国産レアアース』を安く買えばいいし、われわれのプロジェクトを潰そうとしてレアアース価格を一時的に下げてきたときは『国産レアアース』は高く買うことになりますが、残りの90%は安く買えることになります。このように少しでも自給することで、日本が価格の調整弁を握ることができるということが重要です」(加藤研究室)