中国版ツイッター「微博(ウェイボー)」を活用する自治体が増えている。公式ページを開設し、中国語が分かるスタッフが更新。観光情報を中心に各地の見どころをアピールして中国での知名度上昇、その先には観光客として訪れてもらうねらいがあるようだ。
ページ開設2年足らずで3万人のフォロワーを集めた例もある。ただし、単純に観光案内を流すだけでは魅力あるページにはならないと専門家は指摘する。今後は交流サイト(SNS)としての特徴をどう生かすかがポイントになりそうだ。
震災直後「日本の中国人にも中国語で情報を」
ウェイボーのひとつ「新浪微博」は、登録者数3億人ともいわれる。中国向けに情報を発信する日本の著名人もおり、歌手の福山雅治さんや俳優の小栗旬さん、京セラ創業者の稲盛和夫氏など幅広い。タレントの蒼井そらさんは、フォロワー数が1244万人と自身のツイッターをも上回る。
日本の地方自治体も、新浪微博を中国人観光客の獲得に利用しようと続々とページを開設している。2011年3月11日の東日本大震災以降、訪日中国人は一時的に減少したが、日本政府観光局の6月22日の発表によると、2012年5月は11万3400人に達し、5月としては過去最高に達した。2011年7月には、沖縄県を訪れる中国人を対象に有効期限内であれば何度でも出入国できる「数次ビザ」を発給しているが、来月からは岩手、宮城、福島も対象に広げるなど、国としても中国人観光客の呼び込みに躍起になっている。
自治体のページの中で注目なのが、フォロワー数が3万4000人を超える福島県だ。2011年2月23日に開設して間もなく東日本大震災、東京電力福島第1原発の事故が起きた。福島県上海事務所に取材すると、震災当時は「日本に住む中国人向けにも中国語で正しい情報を発信しよう」と、微博を通して震災や原発事故を伝え続けたと話す。公的機関からの正確な情報が得られるとあって、フォロワー数は一気に増え、3万人を超えるまでになった。
震災から1年がたち、現在では微博の運営目的を「福島が復興していく様子を伝えていく」ことに重点を置いている。最近では、福島県の微博ページを見て連絡してくる現地メディアなどもあるそうだ。県上海事務所では、微博による情報提供を通じて「最近では中国の人たちから『福島を訪問してみたい』との声が上がるようになりました」と、震災直後からの変化を実感するようになったという。
中国人ユーザーと一緒にページをつくる
同じ東北の青森県も、フォロワー数が3万人に迫る。県観光交流推進課に聞くと、「こまめに情報を更新し続けることで、中国人ユーザーの関心を引けたのではないか」と話す。県では動画投稿サイト「ユーチューブ」を利用して、中国人女性が青森の物産や観光スポットを中国語で紹介する動画を配信していたが、これを微博と連動させたことで人気が増し、フォロワー獲得に一役かったようだ。
現在、都道府県や市レベルで微博を開設している数は、およそ30自治体に上る。アジアクリック代表の高橋学氏はJ-CASTニュースの取材に、「ここ1年で急速に増えました」と話す。中国人観光客の集客を目的に始めるところが多いが、単に観光情報を発信するだけでは「ウェブサイトと変わりません」と高橋氏。SNSである微博のメリットを生かし切れていないというわけだ。
その点、仙台市のページはフォロワーとの双方向性を重視しているのがユニークといえる。ページ上での会話や、仙台在住の中国人が「地元」のよさをアピールする書き込みをするなど、ユーザー自身がページづくりに参加する。中国人の興味や好みは日本人と必ずしも一致しない。一方的に「ここを訪れるのがよい」「この名産品がおいしい」と宣伝しても、かえって的外れになる恐れもあるだろう。仙台の場合、中国人ユーザーを「巻きこむ」形でのページづくりが奏功して、スタートから1か月強でフォロワーは5300人を超えた。
中国人観光客を取り込みたいのは、何も日本だけではない。言わば世界中の観光地がライバルだ。だが現時点で日本の自治体の微博は、「情報量や更新頻度がまだまだ不足しています」と高橋氏は指摘する。岐阜県のように頻繁に情報を出すことで中国人ユーザーの間で知名度が広がり、北海道や京都、富士山といった「定番」の観光地に次いで「訪れてみたい場所」に選ばれたケースは参考になるだろう。「SNSでは、主張しなければ存在していないのと同じ」(高橋氏)。更新する情報の質やフォロワーとの交流は重要だが、前提として発信そのものを怠っては意味がない。
微博のページ運営の目的はフォロワー数増ではなく、本当のファンを獲得することだと高橋氏は強調する。フォロワーが「親友」となれば、わざわざ中国からその土地を目指して足を運んでくれるようになるかもしれないのだ。