カジノで巨額をすった「ボンボン」、井川意高氏が前会長だった大王製紙。昨年来、経営が大揺れしたこの会社に、同業の北越紀州製紙が2割程度出資する方向となった。業界4位の大王と5位の北越紀州による「大王・北越紀州連合」は製紙業界で王子製紙、日本製紙グループ本社に次ぐ国内3位グループに躍り出る。また、今回の買収を通じて大王製紙創業家の井川家と現経営陣との対立も解消する。ゴタゴタが収まったことで、かねてから過剰設備が指摘されてきた製紙業界にさらなる再編の号砲が鳴り響くことになりそうだ。
発行済み株式の約2割売却
北越紀州による出資は、井川家が持つ大王株をほぼすべて買い取る形をとる。これは大王の発行済み株式のおよそ2割にあたり、買収額は100億円程度になると見られている。ちなみに創業家はこの売却益をもとに意高氏の借り入れを完済する。
北越紀州は既に3%程度の大王株を保有しており、合わせれば2割超となり、筆頭株主になる。北越紀州は役員を派遣し、決算上のつながりが生じる「持ち分法適用会社」とする見通しだ。
大王は昨年9月、創業家3代目の意高氏が、グループ企業から100億円以上を借り入れ、個人的にカジノなどで散財したことが発覚。意高氏は会長を辞任し、創業家側が経営執行部から離れた。しかし、大王のグループ経営の特殊な構造が創業家離れを阻んだ。
大王は、紙製品の生産や販売を傘下の37社が担い、本社は統括する立場にある。「脱・創業家」を目指す大王の経営陣と創業家の対立を受け、37社のうち創業家が支配する18社が大王の連結から外れる「分裂経営」に陥っていた。
18社には、紙おむつやティッシュペーパーなど主力商品の生産会社も含まれる。このため大王の経営陣は創業家からの株買い取りに向けて交渉してきたが、今年3月末に決裂し、大王の経営再建は暗礁に乗り上げていた。北越紀州は、創業家が持つこの18社の株も取得し、大王側に売却する方向。これによって大王創業家と経営陣の対立は解消に向かう。
「反王子」で提携の恩返し
ちなみに、北越紀州が大王株を買収するのは、過去の経緯も反映した。2006年に北越製紙(当時)が王子製紙から敵対的TOB(株式公開買い付け)をふっかけられた時、大王が北越と2~3%ずつ株式を持ち合う資本提携を結んで「反王子」の立場で支援。今回の創業家株買い取りはその"恩返し"の意味合いもある。
大王の内紛収束を含めた今回の北越紀州による大王株買収は、新たな再編を呼ぶ可能性もある。製紙業界では需要低迷などから1990年代以降に再編劇が相次ぎ、王子と日本の上位2社は計旧6社を統合している。業界内ではレンゴーや三菱製紙などの準大手的なポジションの企業が再編対象として取りざたされている。これらの花嫁候補をめぐり、2006年の「王子による北越TOB」のような荒っぽい争奪戦が再び展開される可能性を指摘する向きもある。