消費増税をめぐる攻防が国会内で激しさを増すなか、「新聞や出版物の税率引き上げは許さない」と、超党派の国会議員でつくる「活字文化議員連盟」が声明を発表した。
大手紙トップも意見表明し、「頭脳にとってのコメ」である新聞への軽減税率適用を主張した。しかし「紙面上で『増税やむなし』の論調を出しながら、自分たちだけ税率を下げろというのか」と批判する声もあがっている。
「知識課税は避ける」欧州を「大いに参考にすべき」
民主党の山岡賢次副代表や自民党の川崎二郎衆院議員らによる活字文化議員連盟は2012年6月20日に総会を開き、声明を発表した。新聞や書籍に対する消費税率引き上げについて「国民の活字離れを加速させ、これからの日本を支える人づくりはもちろん、地域づくりや国づくりにも悪影響を及ぼしかねない」と反対の意向を示した。
根拠として、フランスやドイツの事例を紹介。新聞や書籍は食料品と同様に税率をゼロとしたり、標準税率よりも低い税率を適用したりしていると説明する。欧州では新聞や出版物を「民主主義のインフラ」とみなし、「知識課税は避ける」という理念と伝統があり「わが国も大いに参考にすべきものだ」と提言。そのうえで、新聞と出版物の消費税率引き上げに「断固として反対」し、現行税率の維持を求めるとしめくくった。
連盟の総会に出席した日本新聞協会会長の秋山耿太郎・朝日新聞社長は、「インターネット社会で情報が氾濫している」現在、正確な情報と世論形成力、国民の浸透度などから「新聞の役割は重要」と発言。白石興二郎・読売新聞社長は、かつて売上税創設構想の際に、当時の中曽根康弘首相が「新聞は頭脳にとってのコメ」なので軽減税率の項目のひとつに加えて当然との話があったことを取り上げた。その際は実現しなかったが「新聞が日本の活字文化にとってコメであると改めて訴えていきたい」と強調している。
主要紙や大手出版社が、議員と同調して「新聞・書籍の消費税率アップ反対」の大合唱だ。この姿勢にインターネット上では、大手メディアに対する厳しい意見が出ている。ツイッターを見ると、「自分の業界の税金を下げろって、誰でも言いたいよ」「新聞より食料品の税率を下げて」「マスコミだけが特別扱いなんて理解は得られない」とバッサリ。上智大学文学部新聞学科の碓井広義教授(メディア論)はJ-CASTニュースの取材に、「大手マスコミは、読者に向けて『今、消費増税していいのか』という根本的な議論を喚起すべき大事な時期なのに、自分たちの業界だけ『知識課税するな』で押し通そうとするのは無理があるのではないか」と指摘する。
10代の新聞閲覧時間は1日10分未満
碓井教授は、そもそも新聞は「社会の木鐸」として権力を監視する立場にあるはずなのに、議員と手を組んで「新聞の税率を上げるな」と主張している点を疑問視する。ネット上の意見を見ると、「新聞は消費増税に同調しているようだ」との見方をする人も少なくなく、「自分たちだけは軽減税率を求めるなんて」と呆れる声もちらほら聞かれる。
例えば毎日新聞は2012年6月10日の朝刊で、「軽減税率の導入に動け」との社説を掲載した。低所得者ほど相対的に負担が重くなる消費税の逆進性を取り上げ、その緩和策として軽減税率の有効性を説明しているものだ。食料品や水道水と並んで「知識課税を避ける」欧州の事例をわざわざ取り上げ、新聞や書籍がどのような税率になっているかをつづっている。読売新聞も5月19日付朝刊社説で、軽減税率を「低所得対策の有力な選択肢だ」と紹介。文章中、生活必需品のコメや生鮮食品と並んで「活字文化を担う新聞、書籍」などに対象を絞り込めば「政府が懸念する税収の大幅な落ち込みにはならないのではないか」と主張した。
だが新聞が今日でも、水やコメのように人々の生活に欠かせないものと言えるかどうかは微妙だろう。碓井教授が教える学生で紙の新聞を読んでいる割合は、「壊滅的」と言えるほど少ないという。「今の若い世代は、中身が優れていれば多少高額でも購入するもの。新聞を購読していないのは、お金を払ってまで読む必要がないと考えているからでしょう」
博報堂DYメディアパートナーズメディア環境研究所が2012年6月13日に公表した「メディア定点調査2012」を見ると、東京地区におけるテレビ、ラジオ、新聞、雑誌、パソコンや携帯電話からのインターネット接続を合わせた1日のメディア接触時間の合計は、2008年と比べて2012年は32.1分増えているが、新聞の閲覧時間は28.5分から24分と逆に減少した。特に15~19歳は、男性が8.9分、女性4.9分と10分を切っている。働き盛りの30~39歳でも男性16.5分、女性14.1分と低迷していた。