著書がベストセラーにもなっている慶應義塾大学の人気教員に、経歴詐称の疑惑が持ち上がっている。当初は「塾内」の話題にとどまっていたが、アルファブロガーや雑誌が記事化した上、雑誌のブログには質問状まで公開された。大学側が質問に対して木で鼻をくくったような対応をしていたことまで明らかになり、騒動に火に油を注いでいる形だ。
渦中にあるのは、大学院政策・メディア研究科に所属する金正勲(ジョン・キム)特任准教授。
ツイッターで「私の肩書きの件で次の2点、改正させて頂きます」
最新の著書「媚びない人生」(ダイヤモンド社)は、日経新聞に2012年6月24日に掲載された6月10日~16日のビジネス書ランキングでは、4位にランクインしている。
ウェブサイトや著著では、
「慶應義塾大学大学院准教授。韓国生まれ。日本に国費留学。米インディアナ大学博士課程修了。英オックスフォード大学上席研究員、欧州連合研究員、ハーバード大学法科大学院客員教授等を経て2004年から現職」
といった華麗な経歴をかかげていたが、これに疑問符が付けられた。
金氏は、突然5月27日にツイッターで、
「私の肩書きの件で次の2点、改正させて頂きます。慶応大学准教授→慶応大学特任准教授/ハーバード大学客員教授→ハーバード大学visiting scholar。混乱を招いた方々にはこの場を借りて深くお詫び申し上げます」
と明かした。「特任」の文字が抜けていたことと、「客員教授」が実際は「visiting scholar」だったことの2点について謝罪した形だ。この「visiting scholar」は一般には「訪問研究員」と訳され、客員教授とは全く性質が異なるものだ。
政策・メディア研究科が本拠地を置く湘南藤沢キャンパス(SFC)での「お目付け役」にあたる國領二郎・総合政策学部長も、5月30日にツイッターで、
「肩書きの件の監督責任は私にあります。キムさんは特任准教授で、昨年度より対外的にもそのように名乗ることがルール化されています。徹底できず、ご迷惑をおかけした皆様におわび申し上げます」
と同様に陳謝している。これは、金氏のような外部受託研究プロジェクトに関係するポストの場合、対外的には11年度から「『特任』准教授」と名乗る決まりになっていたことを指す。なお、11年度に限っては移行期間として、単に「准教授」と名乗ることも認められていた。
FACTAが質問状をウェブに公開
この問題をめぐっては、5月29日にアルファブロガーの山本一郎氏が指摘しているほか、6月下旬発売の月刊誌「FACTA」7月号でも記事化された。記事では、
「この水増しの経歴を真に受け、IT戦略会議民間委員など内閣官房や総務省、経済産業省、文化庁などの政府委員にしていたからだ。いくら慶応ブランドとはいえ、身体検査もしなかった責任論や、紹介者は誰かの犯人捜しでてんやわんやとなっている」
と、疑惑が霞ヶ関や永田町にも影響していることを指摘している。
6月21日には、FACTA編集部が大学に送った7項目にわたる質問状が同誌のブログに公開され、「火に油」状態になっている。質問状は6月5日に出され、回答期限は土日を挟んで6日後の6月11日。にもかかわらず、回答は
「1)~7)の質問にはお答えできません」
の1行だけだったという。
ハーバード「客員教授」は「『誤訳』であったのかなという認識」?
FACTAのブログでは、
「『特任』とは慶應にカネを積んで得た肩書ということだ。つまり、金准教授はどこからか金をひっぱってきて慶應のポストにありついた。慶應はカネさえ積めば、身体検査などしないのだ」
と大学側を皮肉っているが、「身体検査」は行われていないようだ。SFCの事務長と総務担当課長が学内のニュースサイト「SFC CLIP」の取材に応じ、
「慶應義塾大学として、教員着任の際の経歴確認のルールはあるのですか」
との質問に対して、
「履歴書を提出していただきます。自己申告の形です。基本的に提出されたものを信頼します」
と説明している。また、今回の事態については、
「個人的な見解でありますが、悪意はなかったと思っており、詐称とは考えていません。『誤訳』であったのかなという認識です」
と、あくまで「個人的な見解」と断りながらも、故意はなかったと受け止めているようだ。
J-CASTニュースでも、慶應義塾広報室に対して事実認識や金氏の処分の可能性などについて3項目を問い合わせたが、
「本件についてはお答えいたしかねます」
とのみ回答した。