国土交通省の有識者会議「安全に関する技術規制のあり方検討会」が2012年6月1日、計100項目に上る規制の見直しを盛り込んだ報告書をまとめ、公表した。格安航空会社(LCC)の参入が相次ぐなど航空業界の世界的な競争が激化する中、国内航空各社の負担になっている規制を見直し、航空産業の成長につなげようとの狙いだ。
LCCなどが強く求めていたパイロットの年齢規制緩和にも踏み込み、LCCを後押ししようという色彩が強くにじんだ。
LCCの活性化を後押し
大手航空やLCC各社などから積極的に要望を募り、その要望を吟味する形で見直しを検討した。特に注目されるのは、LCCへの対応だ。
今回の規制見直しでは、航空機内に乗客がいる場合でも、一定の条件を満たせば給油することできると明確化した。LCCは着陸から次の離陸までの間隔を短くし、航空機の回転率を高めることで収益アップを図るビジネスモデルで、LCCの活性化を後押しする可能性が高い。
また、パイロットの昇格審査の際、これまでは実際の飛行機で実施してきた実技試験について、フライトシミュレーター(模擬操縦装置)を使えるようにした。多様な飛行条件が再現できるなどシミュレーターの機能は進化しており、実際の飛行機を使うより充実した試験ができると判断した。実際に機体を使わないですめば、航空会社の負担は軽くなり、LCCをはじめ大手航空会社にもメリットが大きい。
安全性を検証しながら実施
さらに、これまでの制度では、60歳以上のパイロットは1機に1人しか乗務できなかったが、機長と副操縦士の2人とも60歳以上で乗務できるとした。航空会社がパイロットを自前で養成すれば、費用も時間もかかり、負担は大きい。このため経費節減を重視するLCCはベテランを中途採用するケースが多いが、世界的にLCCが活発化してパイロットの数はひっ迫しており、若手の採用が難しくなっている。年齢規制が緩和されれば、LCCは生命線ともいえるパイロットの確保がしやすくなる。
世界的に航空自由化が進む中、「日本の基準は世界各国に比べて厳しく、企業には負担が重い」(航空関係者)との批判が従来から上がっていた。今回の広範な規制見直しについて、国交省は「国内ルールが日本の航空会社の競争の足かせになってはならない」としている。
一方、関越自動車道の高速ツアーバス事故を機に、規制緩和の陰で交通の安全性が疎かになっていないかという心配の声が高まっている。国交省は「安全の確保を大前提としたうえで、安全性の検証を行いつつ実施する」としており、運用については慎重に対応することを強調している。