2012年4月26日配信の本コラムで、消費税増税は「プロレス」だと書いた。それに対して、何人かの国会議員からプロレスには加担しないという力強いご意見を伺ったが、今、民・自・公の3党合意をみると、残念ながらやはりプロレスだったことが明らかだ。
政権交代時の公約を破って増税しようとしてるのに、マスコミや評論家諸氏はこの民主主義の大原則を破る行為を非難しない。しかも、政党政治のルールと手続きを無視して、民主党は野党と野合し、なりふり構わず通そうとしている。これは戦後政治の歴史の中で最悪級の醜態だ。欧州危機が目前に迫る中で、経済的にも増税のタイミングは最悪だ。
起立採決で「造反」うやむやに?
先のコラムで、「6月末の国会会期延長になると、9月の代表戦、総裁戦の前倒しという議論もでてくる」と書いた。まさに、今「9月8日までの79日間延長」されようとしている。衆議院採決の日取りで21日か週明けかで民・自・公はもめているが、それは些細な話だ。民主289、自民119、公明21の計429なので、多少造反があっても、衆院過半数240はもちろん、参議院を無用化する再議決320は、圧倒的多数で楽々クリアできるのだ。
採決の日程でもめているが、採決の方法では何もマスコミに出ていないのはおかしい。採決の方法は、起立採決(起立によって採決する方法で、だれが起立したかは厳密にはわからない)が原則だ。記名採決は、出席議員の5分の1以上からの申したて等が条件となっている。民主の造反組が記名採決を望まない場合、民・自・公が談合すれば、記名採決さえもできなくなる。
民主党の造反組は、党内処分しないでくれとも言っている。そうした場合、誰が造反したかが対外的にも明らかになる記名採決を望まない可能性が高いだろう。であれば、採決は起立多数になって、中には起立といわれても中腰で起立したかどうか外からわからない「造反組」もでてくるだろう。民主党は党を割らないという方針なので、記名採決ではなく起立採決にして党内処分はお茶を濁すという可能性もある。
9月上旬に総選挙という政治日程
もっとも、増税プロレスの延長戦は「9月8日までの79日間延長」の方のようだ。これは、民主の代表選、自民の総裁選の直前までという日程だ。そうなると、先のコラムで書いたように、代表選、総裁選の前倒しになるだろう。そこで、新しい顔ぶれで総選挙という流れになるはずだ。
ここで思い出されるのが、2005年の郵政解散・総選挙だ。8月8日に解散し、9月に投票となった。これに習うと、一応9月まで国会を延長するが、8月上旬に国会を解散し、9月上旬に総選挙という政治日程が、政治家の間で自然と連想されるだろう。
この日程であれば、反増税、暫定原発再稼働と政策的に対立軸となり、「第2極」になりうる大阪維新の会やみんなの党などに選挙準備の時間を与えないために、民・自・公は議席を減らしはするが、第1極の立場を維持できるからだ。
民・自・公の「増税大連立」による増税プロレスは、ここまでストーリーができていると思う。ただし、総選挙の結果までは読めていないはずだ。それは国民の選択なのだから。
++ 高橋洋一プロフィール
高橋洋一(たかはし よういち) 元内閣参事官、現「政策工房」会長
1955年生まれ。80年に大蔵省に入省、2005年から総務大臣補佐官、06年からは内閣参事官(総理補佐官補)も務めた。07年、いわゆる「埋蔵金」を指摘し注目された。08年に退官。10年から嘉悦大学教授。著書に「財投改革の経済学」(東洋経済新報社)、「さらば財務省!」(講談社)など。