シャープと電子機器の受託製造サービス(EMS)世界最大手、台湾・鴻海精密工業との共同事業の方向が見えてきた。共同展開することなどを柱とする、新たな経営戦略を発表したからだ。
スマートフォン(高機能携帯電話、スマホ)の共同展開を柱に据えるほか、薄型テレビの主材料である大型液晶パネルを生産する堺工場(堺市)からの鴻海によるパネル買い取りの開始時期も、2012年7月へと3カ月前倒しし、増産を図る。提携関係を深めて生き残りを図る狙いだが、パネルが本当に売れるのかなど、越えるべきハードルも低くない。
提携第1弾となるスマホは中国向け
シャープの奥田隆司社長が12年6月8日の東京都内での記者会見で明らかにした。この中で、「テレビや携帯電話などコモディティー(汎用品)となったデジタル商品はもはや技術だけで勝てない」と強調。鴻海との本格的な提携第1弾となるスマホ事業も、コストの低い鴻海にシャープが生産委託することが計画の軸になる。
スマホは中国向けを対象とする。シャープの先端技術をもとに共同で製品を開発し、鴻海の中国国内の工場で生産する。13年度から出荷を始める方針。入門機から高機能機種までとりそろえるが、コストの低い鴻海の量産技術を生かして製品価格を抑える。これによって、市場開拓で先行する韓国勢に技術のみならず、価格面でも対抗できる体制をとることを目指す方針だ。中国の携帯電話市場は来年度に約3億台が見込まれ、ビジネスチャンスが大きいことも提携初の舞台にふさわしいと判断した。
一方、シャープの薄型テレビの売り上げ低迷などから、稼働率の低下が問題なっていた堺工場。鴻海は提携により、生産量の半分を買い取る方針だが、その開始時期を3月末発表時の「10月」から、今回、「7月」に前倒しした。パネルの在庫が積み上がったことなどから稼働率は12年1~3月に5割、4~6月は3割程度にまで落ち込んだが、鴻海の引き取り開始を受けて、7月以降は9割に上がるという。
「需要を過大に見込み過ぎていないか」と疑問噴出
また、7月以降は、シャープ本体の大型液晶パネル部門を切り出し、同部門の約1300人の従業員は、堺工場運営会社に移る。同時に堺工場を鴻海との共同運営体制に切り替える。堺工場運営会社には鴻海の郭台銘董事長(会長)が個人で出資予定。出資比率はシャープと同率の37%程度となる見通しだ。大型液晶部門の本体からの切り出しは、「液晶一本足打法」と揶揄された過去からの脱却を示す意味もあると見られる。
ただ問題は、シャープの目論見通りに堺工場のパネルが捌けるかどうか。
8日の会見は証券会社のアナリストミーティングも兼ねたものだったが、アナリストからは「稼働率9割」の見通しについて、「需要を過大に見込み過ぎていないか」と疑問が噴出した。あるアナリストは「昨年もこの時期、片山(幹雄)社長(当時)が強気の見通しを立てて失敗した」などと話したが、奥田社長は「私は堅くマネジメントしていく」と述べ、需要予測は保守的だと強調した。
確かに鴻海が半分引き取ったとしても、半分はシャープが捌かねばならない。シャープの大型テレビに世界でどれほどの需要があるか、4月に発足したシャープの新体制は早くも真価が問われる局面を迎える。