緊縮財政の是非が争点となったギリシャの再選挙は、「緊縮派」の新民主主義党(ND)が勝利を収め、心配されたユーロ圏離脱の恐れはひとまず消滅した。
結果によってはギリシャだけでなく、欧州や世界の金融市場の行方を左右するとみられた今回の選挙。「運命の1日」は乗り切ったものの、危機が去ったわけではない。
夜の街ではうっ憤を晴らすかのように大騒ぎ
投票日前日の2012年6月16日夜、ギリシャ国内ではサッカー欧州選手権の結果にわいていた。1次リーグ敗退が濃厚だったギリシャがロシアに勝利し、劣勢をはね返して8強に進出したのだ。久々の明るいニュースに市民は酔いしれ、夜の街ではうっ憤を晴らすかのように大騒ぎを繰り広げた。
だが世界中が注目した再選挙では一転、結果が出た後も「祝賀ムード」は抑え気味だ。確かにアテネ中心部にあるシンタグマ広場には、NDの支持者らが集まって勝利を喜んだ。だが比較的早い時間に大勢が判明したこともあり、J-CASTニュースの取材に応じたガブリール・ザンソピュロス氏をはじめ、大半は結果を冷静に受け止めていたようだ。同氏の場合も、住まいの外は静けさが保たれ、喜びの声を上げる群衆も見かけていない。
週明けの18日に出勤すると、職場は「いつも通り」だった。同僚と選挙について会話を交わすが、ユーロ圏離脱が避けられてよかったといううれしさに浸る雰囲気は感じられない。誰も事態を楽観視しておらず、関心事は「連立政権がどうなるか」に移っていた。過半数に達しなかったNDは、野党第1党となる急進左派連合(SYRIZA)に次ぐ得票数をもつ全ギリシャ社会主義運動(PASOK)と連立を組むことが確実視されている。ザンソピュロス氏は「新政権にはもちろん期待するし、少しでもよい変化が生まれてほしい」と願う。
市民たちは選挙結果に複雑な思いを隠さない。ロイター通信の記者は選挙の翌日、シンタグマ広場で街頭インタビューをしているが、結果を受けて「今までより状況は安定する」と期待を寄せる人がいる半面、「まだ平和が訪れたわけではない」と、決して安心していない意見もあった。
当面は増税、年金削減の「締め付け」を覚悟
「次にどうなるか誰にも分からない。将来への不安は残ったままです」
ザンソピュロス氏がこう口にするのは、政権を担うNDがギリシャ危機の原因となった巨額負債の隠ぺいを行った政党だからだ。与党時代にNDは、無駄とも思える大型投資を次々に実行し、債務を増やしていったという。過去のあやまちから何も学ばずに失敗を繰り返せば、当然状況は悪化するはずだ。連立政権に参加する他党からいかに有能な人材を登用し、適切な政策を進められるかがカギとなる。
NDは、金融支援の代わりに緊縮策の遂行を提示している欧州連合(EU)や国際通貨基金(IMF)に、厳しい条件を緩和するよう交渉する意欲をみせるが、EU側は譲歩に難色を示している。いずれにしても「緊縮派支持」という審判を下した以上、ギリシャ市民は当面、増税や年金削減といった「締め付け」を覚悟しなければならない。
財政再建への道は厳しく、金融不安は残ったままだ。ひとまず緊縮策を飲んだ市民も、「耐乏生活」の出口が見えない日々が続けば不満が爆発する日がくるかもしれない。不確定要素ばかりの現状では、ザンソピュロス氏のように、市民らが「とても祝っている場合ではない」と考えるのも当然だろう。